『隣のステラ』
監督:松本花奈
出演:福本莉子,八木勇征,倉悠貴,横田真悠,西垣匠,田鍋梨々花,清水美砂,宮崎吐夢,紺野まひる,野波麻帆,浜野謙太他
封切り日にイオンシネマ茨木にて。
原作は餡蜜の同名人気少女漫画で、2022年2月より『別冊フレンド』にて連載中。監督は『明け方の若者たち』(2021)の松本花奈。彼女はもとは女優で慶應大卒で容姿端麗、『サイドカーに犬』(2007)などにも出演。『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022)の脚本家でもあります。学歴差別だルッキズムだというけれど、与えられた役を演じる側だった才色兼備な女性が自分でメガホンを取るようになればそりゃ話題になります。天は二物を与えずということはない(笑)。
高校生の天野千明(福本莉子)と柊木昴(八木勇征)は同い年、家が隣同士の幼なじみ。幼少期から今までいつも一緒にいる仲だったが、昴が芸能界入りしてたちまちスターに。昴への想いを打ち明けられないまま、何かと忙しい昴の母親・透子(紺野まひる)に代わって昴を起こすなど、すっかり世話係となっている千明。寂しくはあるが、昴のそばにいられることは嬉しい。
ある日、昴はドラマのオーディションに合格。人気女優の篠原葉月(横田真悠)と共演することが決まり、キスシーンもあると聞いた千明は気が気ではない。親友たち(西垣匠&田鍋梨々花)からも発破をかけられて昴に告白するが、幼なじみ以上には考えられないとの返事。落ち込んでいたところ、バイト先の先輩・高橋雄大(倉悠貴)からデートに誘われて……。
評判良いようですが、中盤すこし寝ました(笑)。すみません。なんというのか王道すぎて、想定外のことが何も起こらないんです。ちょっと違うのは「幼なじみの片方がアイドルになってしまった」、それだけだし。八木くんはこういうスターの役にはどうもハマらない気もして、『矢野くんの普通の日々』(2024)なんかのドンくさい彼のほうが好きでした。倉くんに注目しはじめたのは主役を張っていた『OUT』(2023)のときからですが、『傲慢と善良』(2024)のようなチョイ役でも温かみがあるし、直近の『リライト』では脇役ながらいちばん奮闘する根っからのイイ奴で存在感ありあり。
この人を見れば必ず思い出す1990年のドロドロ大ヒットドラマ『クリスマス・イブ』。その清水美砂(2008年に清水美沙に改名→2022年に再び清水美砂に戻す)がこうして福本莉子の母親役を演じているのだから、時の流れを感じます。彼女が親友(仙道敦子)の恋人(吉田栄作)を寝取ろうとする姿は強烈でした。この時代はこんなドロドロのやつが大流行りで、同年のドラマ『想い出にかわるまで』では姉(今井美樹)の婚約者(石田純一)を妹(松下由樹)が寝盗ったり。しかもオトコはみんなその術中にドボンとハマるんですよね。アンタらワラける。あ、脚本はどちらも内館牧子だ。
あ、話がすっかり逸れちゃった。つまり、こんなドロドロにはならないから、話が読めすぎて眠くなるってことです。それほど意地悪な人が出てこなくてドロドロじゃないほうが安心できていいですけどね。これは安心できすぎて、会話もちょっとオバハンが観ると恥ずかしい。ひとりで照れている自分が可笑しかった。
『ランド・オブ・バッド』
『ランド・オブ・バッド』(原題:Land of Bad)
監督:ウィリアム・ユーバンク
出演:リアム・ヘムズワース,ラッセル・クロウ,ルーク・ヘムズワース,リッキー・ウィトル,マイロ・ヴィンティミリア,チカ・イコグウェ,ダニエル・マクファーソン,ジャック・フィンステラー,リンカーン・ルイス,ガンナー・ライト他
イオンシネマ茨木にて。前週の金曜日封切りで、上映スケジュールの作品名横には「New!」の文字が躍っているのに、次の金曜日にはもう上映予定なしだなんて。なんてことだと思いながら上映打ち切り直前の木曜日に観に行きました。普通は上映が終了する作品名の横には「Last!」の文字が出るところ、本作は「New!」のまま「Last!」の文字を見ることなく終了だぜ。
ウィリアム・ユーバンク監督にはなぜだかご縁がありません。過去作品はたぶん1本も観ていない。米軍に所属する2人が主人公だけど、リアム・ヘムズワースもラッセル・クロウもオーストラリア人だよ。こんなキャストでええんかい(笑)。この2人は『ポーカー・フェイス/裏切りのカード』(2022)でも共演していますね。リアムは言わずと知れたヘムズワース兄弟のうちのひとり。同じく兄弟のルーク・ヘムズワースも主要メンバーとして出演しています。
イスラム過激派の根城となっているフィリピン・スールー海に浮かぶパラワン島。同島で拉致されたCIAエージェントのアセットを救出するという極秘任務を命じられたキニーは、実戦経験のほぼない新米のJTAC(統合末端攻撃統制官)。JTACの主な役目は、本国の空軍基地とやりとりして航空支援を求める連絡係。キニー以外の3名は百戦錬磨の米軍特殊部隊デルタフォースのメンバーで、こんな任務に放り込まれてきたキニーを見て呆れかえり、せめて自分たちの足を引っ張ってくれるなと言い放つ。
本作戦のリーダーを任じられた軍曹シュガーと彼の部下であるエイベルとビショップ、そしてキニーが向かったのは、テロリストと繋がりがあるとされる富豪ペドロフの邸宅。そこにアセットが監禁されているはず。密かにペドロフ邸にたどり着こうかというときにテロリストのハシミ率いる過激派の面々が現れる。てっきりハシミとペドロフが武器の売買をするのかと思いきや、ハシミはペドロフやその家族をいとも簡単に殺す。子どもまで殺されそうになっているのを見過ごすわけには行かず、隠れていたシュガーたちが発砲。結果、反撃を受けてエイベルは死亡。シュガーやビショップも命を落としたと見られ、残ったのはキニーのみ。ひとりきりになったキニーは、本国の空軍基地にいる“リーパー”ことグリム大尉と連絡を取り、無人戦闘機を介して助けられながら窮地を脱しようとするのだが……。
1週間で打ち切られるぐらいですから、さぞかし客入りが悪かったのだろうと思います。とはいうものの、このキャストだからそれなり以上には面白いはずと思ったら、やっぱりまぁまぁ面白かった。
『ドローン・オブ・ウォー』(2014)を思い出します。でもあちらは遠隔操作する側にもっと緊張感があった。ところがこちらは空軍基地にいる側に緊張感ゼロ。バスケットボールの試合中継を観戦して騒ぎ、電話が鳴ると鬱陶しいから受話器を上げたままにする。リーパーにしたって、最初はまもなく出産する妻の容態が気になって仕方なく、その電話が入るかもしれないからみんな気をつけておいてくれと言う。けれどもキニーを支援しはじめてからはとにかく彼を無事に脱出させようと必死になります。リーパーを父親のように慕う軍曹ブランソンとのコンビもとても良い。
戦争のことを気にしていても、たとえ軍人であっても最前線にいなければこんなぐらいの意識になるのかなぁと思います。軍人でこれなら、私たちはもっと意識しなければ、自分とはまったく関係のないことになってしまう。
ますます太ってこの腹では動けなくなりそうなラッセル・クロウが基地へ帰り着くのがはやすぎる。なんぼなんでもあと何十秒とかで帰れます!? ま、こういうツッコミどころもあるから面白いんですけど。
『雪風 YUKIKAZE』
『雪風 YUKIKAZE』
監督:山田敏久
出演:竹野内豊,玉木宏,奥平大兼,當真あみ,藤本隆宏,三浦誠己,山内圭哉,川口貴弘,中林大樹,田中美央,田中麗奈,益岡徹,石丸幹二,中井貴一他
109シネマズ箕面にて。
戦艦ものの男性人気は凄いですよね。私なんてまるで知らないから、実在の戦艦の話が映画化されるたびに、「へ~っ」とか「ほ~っ」とか思っているだけです。戦艦と軍艦って違うのかしらなどとも思っていた口で、わりと最近調べて軍艦が戦艦の総称であることを知ったぐらいです。
本作は太平洋戦争において活躍した実在の駆逐艦“雪風”をめぐるドラマ。ほら、ここでまた私のわからない言葉が。駆逐艦とはなんぞや。駆逐艦は“大和”などの主力艦を護衛するのがおもな役目なのだそうです。機動性が高いのが特徴で、主力艦が沈没して乗組員たちが海に投げ出されると直ちに救助に向かう。攻撃に遭って帰らぬ駆逐艦も多いなか、雪風は最前線から仲間を救って必ず帰ってくるため、「幸運艦」と呼ばれていたとのこと。山田敏久監督はこれまで『ソフトボーイ』(2010)、『二流小説家 シリアリスト』(2013)、『柘榴坂の仇討』(2014)、『起終点駅 ターミナル』(2015)、『あの頃、君を追いかけた』(2018)などなど、硬軟さまざまな作品で助監督を務めてきた人。軍艦ものでは『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』(2011)と『空母いぶき』(2019)でも助監督を務めました。これが初監督作になるようですね。
日米開戦以降、ミッドウェイをはじめとする幾多の作戦に参加して生き抜いた大日本帝国海軍の雪風。下士官や兵を束ねるのは先任伍長の早瀬幸平(玉木宏)。ミッドウェイで死にかけたところを早瀬に助けられた井上壮太(奥平大兼)はこのたび雪風の水雷員となることが叶い、早瀬とともに働けることを光栄に思っている。新しく艦長として着任した寺澤一利(竹野内豊)はいつ何時も冷静沈着で、時折温かさに欠けることも言う。ひとりでも多くの仲間を助けることが自分たちの任務だと考えている早瀬は寺澤の言うことを不条理に感じることもあるけれど、お互いへの信頼は絶大で……。
砲撃だらけの戦艦もののほうが人気があるかもしれませんが、私はこんな描き方のほうが好きでした。冷ややかなところもあるように見える寺澤は、本当は戦争に反対。「九死に一生を得ることはあっても、十死の作戦などあり得ない」と特攻を非難。また、中井貴一演じる第二艦隊司令長官の伊藤整一も、大事な部下たちを犬死にさせるだけの特攻には従わない姿勢を見せます。
何でもかんでもお国のため、少しでも文句を言えば非国民扱いされたのかと思っていたから、最前線で戦っている人たちのなかにもこうした感覚をちゃんと持ち合わせる人がいたことがわかってホッとします。それでも命を落とした人がたくさんいた事実はなくならない。沈んだ敵艦からボートで脱出した米兵たちに向かって部下が発砲したとき、「相手は丸腰だ。恥ずかしい真似はするな」とたしなめた寺澤。そう、いつか我がおこないを振り返るとき、恥ずかしい人間になってはいけない。戦時に限らず、人としてのあり方を考えさせられます。
2025年8月に読んだ本
「3冊」になっているけれど、1冊は既読本が映画化されたときの感想だから「2冊」です。ぜっんぜん読めません。ひと月に15冊とか読んでいた頃の私って何!? そして毎月、今月はがんばろ♪と思うけど、たぶん今月もムリ(泣)。
2025年8月の読書メーター
読んだ本の数:3冊
読んだページ数:1072ページ
ナイス数:563ナイス
https://bookmeter.com/users/762098/summary/monthly/2025/8
■近畿地方のある場所について
【再読ではなく、映画版を観たので書き込み】封切り日に鑑賞しました。もともとホラーは苦手で何年か前までは完全に避けていたけれど、ここ最近は取捨選択せずにホラーも観ています。が、ビビりなのは相変わらずだから、「来そうだな」と思うと目を伏せる。そうしたら、ここ数年でいちばん「直視はしていない鑑賞」になりました(笑)。オカルトがお得意な白石監督らしく、映像も音もおどろおどろしい。だけど、物語としての面白さはイマイチで、特にオチには唖然呆然。ま、ほとんど画面を直視していない私に言われても……とは思います。(^^;
読了日:08月10日 著者:背筋
https://bookmeter.com/books/21248687
■怪談小説という名の小説怪談 (新潮文庫 さ 98-1)
ホラーを読むときの私は酒の力を借りて恐怖心を麻痺させることが多いのですが、先月末に夏風邪をひいてから飲酒欲が薄いせいで素面で読むはめに。ビミョーに怖い7編を前になかなか進めませんでした。今さら気づいたのは、都会を舞台にした話よりも森や山に囚われる話のほうが私は怖いということ。三津田信三の『八幡藪知らず』然り、宇佐美まことの『入らずの森』然り、本作中の『こうとげい』にも逃れられない大きな力を感じます。毎度怖い思いをしながらもホラーを読むのをやめられないのは、すでに取り憑かれているということですよね。(^^;
読了日:08月11日 著者:澤村 伊智
https://bookmeter.com/books/22640471
■俺ではない炎上 (双葉文庫 あ 71-01)
他人の使う日本語について、主人公の泰介のように指摘はしませんが、私も「ら抜き」や「さ入れ」がどうにも嫌いです。若いお母さんが子どもに向かって「歩けれる?」と声をかけているのを聞いたときは世も末だと思いました(笑)。そんなだから、「文字どうり」という字面を見るたびに眉間に皺を寄せていたら、なるほどそのおかげで泰介のことを信じてくれる人がいたとは。もともと好きか嫌いかは別にして、無実の人が理不尽な目に遭っているなら見ないふりをしてはいけない。無実の人を貶める行動に走ってはいけない。「正義の心」を持ちたいです。
読了日:08月21日 著者:浅倉 秋成
https://bookmeter.com/books/21939441
『親友かよ』
『親友かよ』(英題:Not Friends)
監督:アッタ・ヘムワディー
出演:アンソニー・ブイサレート,ピシットポン・エークポンピシット,ティティヤー・ジラポーンシン,タナコーン・ティヤノン,ナティチャ・チャンタラヴァリーレカ,インカラット・ダムロンサッククン,プラモート・スワングソーン他
シアターセブンにて前述の『おばあちゃんと僕の約束』とハシゴ。第96回アカデミー賞国際長編映画賞のタイ映画代表として出品されましたがノミネートには至らず。同賞にノミネートされたのは『PERFECT DAYS』(2023)、『雪山の絆』(2023)などで、受賞したのは『関心領域』(2023)でしたね。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)の監督ナタウット・プーンピリヤ(別名:バズ・プーンピリヤ)が製作に名を連ねています。もうひとりの製作者ワンリディー・ポンシティサックは『ホームステイ ボクと僕の100日間』(2018)や『バーン・クルア 凶愛の家』(2023)のプロデューサーでもあるのですね。
高校3年生の男子ペー(アンソニー・ブイサレート)は、あと1学期を残すのみという時期に恋人メイジからふられる。ペーの人格を否定するような言葉を投げつけられたうえに、彼女が新しくつきあうのは女子と聞かされてペーは激怒。カッターナイフで彼女に切りかかり、刃傷沙汰となって退学処分を言い渡される。
致し方なく別の高校へ最終学期に転入したペー。隣席のジョー(ピシットポン・エークポンピシット)が人懐っこい笑顔で話しかけてくるが、どうせすぐに卒業するんだもの、友達なんか要らない。ほぼ無視してもなんだかんだと話してくるジョーだったが、ある日、ペーの目の前でジョーが事故に遭って死んでしまう。
同級生の死を最初はみんな悼むけれど、じきに忘れてしまうだろう。ペーだって特に感慨はない。そう思っていたところへやってきた大学生が、短編映画のコンテストにエントリーすることを勧めてくる。もしも入賞すれば無試験で大学に入学できるというではないか。成績が良いわけでもなく、大学に合格しなければ家業の製粉工場を継ぐように父親から言われているペーは、絶好のチャンスを逃す手はないと考える。
ジョーに返し損ねたUSBの中を確かめると、そこにはジョーが書いた感動的な短編が収められていた。それはジョーが短編小説コンクールに応募した作品で、大賞受賞が決まっていたのに、ジョーの死亡により取り消されたらしい。ペーは自分がジョーの親友だったと偽り、この短編を映画化して大学への推薦入学を狙いたい。校長やジョーの親もペーの企画を喜び、卒業式でジョーを追悼する会を開催して映画を上映しようということになる。
ところが自分こそがジョーの親友だったという女子ボーケー(ティティヤー・ジラポーンシン)が現れ、ペーのことを嘘つき呼ばわり。実際に嘘つきだから反論できずにいたところ、ボーケーも映画の撮影につきあうと言い出す。さらには、学校に古いパソコンしかなくて嘆いていた映画オタクたちを捕まえて協力を要請。校長がペーのために最新のパソコンを用意してくれると言うからそれで釣って。
映画オタクには嬉しいネタ満載。クリストファー・ノーランやスタンリー・キューブリックやマーティン・スコセッシ、J・J・エイブラムス、“スター・ウォーズ”シリーズの数多くのキャラクター創造者で、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)で製作総指揮を務めたジョージ・ルーカスなどなど、登場する名前は数知れず。『TENET テネット』(2020)を参考に映画を撮影しようとするシーンは相当おもしろい。映画じゃないけど、男子高校生の夢に「日本へ行って“一蘭”のラーメンを食べる」なんて夢もあって笑っちゃいます。
ジョーが想いを寄せていたリウ(ナティチャ・チャンタラヴァリーレカ)との関係、実はジョーのことが好きだったとおぼしきボーケーとの関係、それぞれに切なくてめちゃめちゃ青春。本当はそんなに親しくなかったとしてもこうして思い出せばいい。今まで観たタイ作品の中でいちばん好きでした。