『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』(原題:Sew Torn)
監督:フレディ・マクドナルド
出演:イヴ・コノリー,ケイラム・ワーシー,K・カラン,ロン・クック,トーマス・ダグラス,ヴェルナー・ビールマイアー,ヴェロニカ・ヘレン=ヴェンガー,キャロライン・グッドオール,ジョン・リンチ他
前述の『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』を烏丸の京都シネマで鑑賞した後、烏丸御池のアップリンク京都へ移動して本作を観ました。この劇場もいつぶりだろうと調べてみたら、やっぱりほぼ8カ月ぶり。
カリフォルニア州サンタモニカ出身のフレディ・マクドナルド監督はなんとまだ25歳。本作はもとは映画学校への出願用に撮ったわずか6分の短編作品だったところ、早々にサーチライト・ピクチャーズが買い取りを決定。それがジョエル・コーエン監督の目に止まり、長編として撮り直すように助言されたとか。AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)の史上最年少会員として受け入れられたそうです。将来が恐ろしくなるような天才っぽい。そんな彼によるアメリカ/スイス作品。
スイスの田舎町で裁縫店を営むお針子のバーバラ。大好きだった亡き母親から受け継いだ店は倒産寸前で、精神的にも物理的にも追い詰められる毎日。そんなある日、車で出かけた先で麻薬取引の場に遭遇。目の前には倒れたバイクと、売人とおぼしき血まみれの男ふたり、散らばった麻薬の袋、そして大金の入ったブリーフケース。どうするバーバラ。
選択肢が3つ提示されます。横取りして完全犯罪を図るか、警察に通報するか、そのまま直進して見て見ぬふりをするか。それぞれを選択したらどうなったかが描かれます。この「もしもこっちの選択をしていたら」という設定はもはや珍しくもないけれど、バーバラの武器が「針と糸」というのがものすごく面白い。3つの選択肢の中でバーバラは針と糸をさまざまな用い方をして切り抜けようとします。針と糸がこういうふうにも使えるのねと感心することしきり。
本作で用いたアイデアは一度しか使えないから、これ以降この天才監督がどんな作品を撮るのか楽しみで仕方ありません。加えて、バーバラ役を熱演したアイルランド出身の女優イヴ・コノリーの今後も楽しみです。
『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』
『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』(原題:Un P’tit Truc en Plus)
監督:アルテュス
出演:アルテュス,クロヴィス・コルニアック,アリス・べライディ,マルク・リゾ,セリーヌ・グルサール,ルドヴィック・ブール,テオフィル・ルロワ,マリー・コラン,ソフィアン・リベス他
東福寺の蕎麦茶寮で忘年会の日、久しぶりに京都で映画を観ることにしました。まずは京都シネマで1本。会員になってはいるもののいつぶりでしょう。このとき以来だからほぼ8カ月ぶりか。本国フランスで『最強のふたり』(2011)の記録を塗り替え、年間第1位の大ヒットを飛ばした作品なのだそうです。
父親ルシアンと息子パウロは親子で宝石店に押し入って強盗を働くが、逃走用の車を身障者用スペースに駐めていたものだからレッカー移動されてしまう。駐禁だと通報したのは障害者施設の職員アリスで、毎年恒例のサマーキャンプに出発するところ。入所者たちが次々とバスに乗り込むなか、今日から入所予定のシルヴァンがまだ姿を現さない。ちょうどそこで立ち尽くしていたパウロを見たアリスは、彼がシルヴァンだと思い込む。パウロのみが連れて行かれそうになり、咄嗟にルシアンは自分が彼の介助者だと嘘をつく。介助者が同行することは通常はないのだが、シルヴァンには絶対に介助者が必要だとアリスを説得。ちゃっかり一緒にバスに乗り込んだふたり。ルシアンの名前を問われるも本名を明かすわけにはいかない。バスの外に見えた店の名前オルピを頂戴し、しばらくサマーキャンプに紛れて身を隠すことにするのだが……。
監督と主演を務めるアルテュスは38歳、フランスの人気コメディアンなのだそうです。本作は本国では2024年に公開されて年間の興行収入1位を記録しただけではなく、フランス映画史上でもトップ20に入るらしい。はたしてそれほどのものかと思わなくはないものの、知的障害者たちを主役にしたコメディとなると、笑ってもよいギリギリの線を攻めたということになるでしょう。
そもそもパウロが新しい入所者だと思われた原因は、パウロが着ていた服。強盗の後、ルシアンとパウロは逃走用の服に着替えますが、パウロが持ってきた服が怪しい。本人は「ドイツ人観光客に見えそうな服」のつもりだけど、ルシアンにするとふざけているとしか思えない服装。「なんだその服は」と呆れるルシアンとおどおどするパウロを見ていると、父親のもとでずっとこんなふうに怯えながら人生を送ってきたのだろうかと推測できます。
パウロはほかの入所者の話し方や動き方を真似て知的障害者のふりをしようとしますが、職員以外にはバレている。「君、障害者じゃないよね」と当の障害者たちは最初から見抜いているのです。問われたパウロは驚きつつ、内緒にしておいてほしいと頼みます。バレていることを知らないルシアンの前では「ふり」をしたまま行動するけれど、入所者たちだけがいる前では物語を楽しく話して聞かせてくれる良き兄ちゃん。パウロがすっかり溶け込む一方、ルシアンは早く宝石を持って逃げる方法を考えたい。とても横柄で許しがたいぐらいですが、予想外に懐かれる。最初はただただ鬱陶しそうにしていたのに、いつしか一緒にサッカーボールを蹴るのが楽しくなります。
パウロの服にしろ、考えてみれば「障害者が着ていそうな格好」とどこかに私たちの勝手な想像があります。こんな役を演じさせていいのかと思うシーンも多々あって、だけどこれって逆に差別しているということかなと思ったりも。健常者なら問題ない役だと頭の中で振り分けているのかもしれません。本物のシルヴァンはどうなったのかというと、集合場所に行ったときにはすでに施設のバスは出発した後で、ちょうどそこへやってきた普通高校のサマーキャンプのバスに乗り込みます。シルヴァンはシルヴァンでそのキャンプを謳歌する様子が楽しい。ノリノリで踊り狂ってみんなからリフトされている様子などを見ると、健常者と障害者の垣根は思い込みで作られているのかもしれないとすら思う。
最後は私が必ず泣いてしまう展開に持ち込まれました(笑)。まんまと泣かされちゃったなぁ。
『ブルーボーイ事件』
『ブルーボーイ事件』
監督:飯塚花笑
出演:中川未悠,前原滉,中村中,イズミ・セクシー,真田怜臣,六川裕史,泰平,渋川清彦,井上肇,安藤聖,岩谷健司,梅沢昌代,山中崇,安井順平,錦戸亮他
扇町キネマってどこ? 昔ありましたよね、扇町ミュージアムスクエアって。20世紀の終わりにそこで『MONDAY マンデイ』(1999)を観たのを思い出します。試写会に当たって、ほぼ一緒に映画を観ることはないダンナと行ったら、「悔しいけど面白かった」と言っていたのでした。「悔しいけどって何やねん」と思った記憶があります(笑)。11月になんばで観逃した本作はもうどこでも上映されていないと思っていたら、その扇町キネマで上映中だと知って滑り込み。性別適合手術が違法か合法かを争った1960年代の実在の裁判“ブルーボーイ事件”に着想を得たという飯塚花笑の作品です。
東京オリンピックを控えた1965年。街の浄化を進める当局は街娼の一斉検挙を目論むが、性別適合手術を受けた戸籍上の男性、通称“ブルーボーイ”が男娼として街角に立っていた場合、現行の法律では取り締まることができずにいた。業を煮やす当局は、そもそも手術をおこなった医師・赤城昌雄(山中崇)に狙いを定めて逮捕する。
赤城の弁護を担当することになった弁護士・狩野卓(錦戸亮)は、手術の正当性を証明するためにブルーボーイたちに証言を求めることに。しかし最初に証言台に立ったメイ(中村中)は、男の気を引くために手術を受けただけだと面白可笑しく話すのみ。次のアー子(イズミ・セクシー)は心は女でありながら体は男であることへの辛さを語るが、狩野からそれはつまり治療を必要とする精神疾患ということかと問われて、病人扱いするのかと激怒。
もうひとり、赤城の手術を受けて狩野から証言を求められるも断ったサチ(中川未悠)は、メイやアー子らとは違い、いたって普通の女性として毎日を送っていた。すでに男性器切除の手術は終えており、すべてを知る恋人・若村篤彦(前原滉)からプロポーズされて、最後の女性器形成の手術が無事終わったあかつきには結婚すると決めている。もしも証言台に立てばマスコミに騒ぎ立てられるだろう。勤務先の店主(渋川清彦)や同僚からどう思われるかわからないし、篤彦にもきっと迷惑がかかるはず。葛藤する日々が続いたのち、やはり証言すると決意するのだが……。
ブルーボーイ事件自体を知りませんでした。こんな裁判があったのですね。
勇気を振り絞って証言台に立ったサチ。マスコミは好奇心のみのように見えます。検事・時田孝太郎(安井順平)は、男性は国家存続のためにその機能を果たすべきと言い放ち、法廷でサチのことを罵倒。それでも逃げようとしなかったサチは、手術を受けることが治療になったと言わせたい狩野の思惑に反し、手術を受けても何も変わらなかったと語ります。望んでいた女性の体になった、女性として愛された。それでも変わったと言えないのは、世間が何も変わっていないから。勝手な女性像を作り上げ、「元は男だった女」としてずっと見られつづける。男であろうが女であろうが私は私。このサチの話には胸を打たれます。
これをきっかけに少しは状況が変わったのだとしても、公に性別適合手術が認められたのは1998年のことだそうです。憲法第13条、幸福を追求する権利はいろんな場面で今も尊重されていません。
『楓』
『楓』
監督:行定勲
出演:福士蒼汰,福原遥,宮沢氷魚,石井杏奈,宮近海斗,大塚寧々,加藤雅也他
TOHOシネマズ伊丹にて、前述の『映画 ラストマン FIRST LOVE』の次に。駐車サービス最悪の109シネマズ箕面と違い、こちらの劇場は「2本観るんですけど」と言ってチケットを提示すると、4時間分(無料サービス分と併せれば5時間分)の駐車券をくれるうえに、今回なんて『映画 ラストマン』が舞台挨拶付きで2時間半超のため、さらに追加であと2時間分くれます。
『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)の行定勲監督による、スピッツの『楓』をモチーフとした作品。スピッツは好きか嫌いかと聞かれたら好きですが、特に聴き込むほどではありません。『楓』を聴いたことはあるけれど、歌詞も知らない。こんなんばっかりだな、私(笑)。ネタバレまじりでどうぞ。
高校時代から恋人同士で同棲中の須永恵(福士蒼汰)と木下亜子(福原遥)は、星を見に出かけたニュージーランドで交通事故に遭う。亜子は命を取り留めたものの、恵は死亡。一卵性双生児の恵の兄・涼(福士蒼汰の一人二役)が恵の葬儀後に亜子を訪ねると、亜子は涼のことを恵と間違えている様子。訂正できないまま亜子と暮らしはじめた涼だったが……。
はいはい、いたって普通の恋愛ものねと思って観ていましたが、真相がわかるくだりはまぁまぁグッと来ます(笑)。ここからはネタバレありありで。つきあうきっかけとなった最初の出会いの相手を亜子は恵だと思っていましたが、実は涼でした。恵と涼は別の高校に通っていて、その日は訳あって恵のふりをして登校した涼。屋上で出会った亜子に一目惚れしたのに、亜子は彼のことを恵だと思い込んでいるから、恵が涼に代わって亜子とつきあうように。
恵の死後、左利きの恵になりすますために、左手で文字を書く練習を必死でする涼。服装や髪型も恵に似せて、仕事に行くときは途中の公衆トイレで涼自身の服に着替えるという入念さ。でも、事故の記事なんてネットでいくらでも調べられるし、亜子が気づかないわけはありません。彼女は最初から気づいていたけれど気づかないふりをしていたなんて、涼にとってなんと酷なことでしょう。涼が恵のふりをしていると気づいていても、最初の出会いの相手が涼だったことには気づいていなかったというオチ(と言っていいのかしら)。最初の出会いを思い出せば、右手で頭をぽんぽんしてくれた時点で、観ている私たち客はあれは涼だったとわかりますよね。甘さはいろいろあるにしても、涼を演じているときの福士くんの切ない表情にはやられる。脇役の宮沢氷魚と石井杏奈もとてもよかった。
双子で姿形がそっくりと言っても性格は全然違って、何でもできる代わりに何にも長くは続かなかった恵は社交的で友人知人がたくさん。一方の涼は不器用だけど、これと決めたことは根気強く続けてモノにする。そんな息子たちを見てきた両親(加藤雅也&大塚寧々)が良い感じです。カメラマンの職に就いた涼と父親の会話がちょっぴり心に沁みました。
昨年は星にまつわる作品が多かったと思いませんか。『この夏の星を見る』(2025)、『秒速5センチメートル』(2025)、そしてこれ。星ってやっぱりロマンなんですね。
『映画 ラストマン FIRST LOVE』【公開初日舞台挨拶ライブビューイング】
『映画 ラストマン FIRST LOVE』
監督:平野俊一
出演:福山雅治,大泉洋,永瀬廉,今田美桜,ロウン,月島琉衣,寛一郎,谷田歩,黒田大輔,松尾諭,今井朋彦,奥智哉,木村多江,吉田羊,上川隆也,宮沢りえ他
TOHOシネマズ伊丹にて、割引なしの特別料金2,200円を払って鑑賞。2023年にTBS系列の「日曜劇場」枠で放送された『ラストマン 全盲の捜査官』の劇場版ですが、TVドラマ版は一度も観たことがありません。出演者に推しがいるわけでもなく、仕事帰りにちょうどよい時間帯の上映だからどうせなら舞台挨拶も観ておこうかと思っただけです。
舞台挨拶にはメインキャストと監督が少なくとも5人以上登壇するものだと思っていましたが、なんとこの日の舞台挨拶は福山雅治と大泉洋のみ。意外で驚きましたが、こういうのもありですね。大泉洋のしゃべりが面白くて。見どころはほとんどわからないままだけど(笑)、福山雅治の言う「公開に至ってもなお伏せられている若手俳優2人」、つまり福山雅治と宮沢りえの若かりし頃を演じているのは濱田龍臣と當真あみでした。封切り後も徹底して伏せる戦略ってどういう意味があるのでしょう。それはともかく、結構笑わせてもらったあとで本編スタート。
“ラストマン”の異名を持つ全盲のFBI特別捜査官・皆実広見(福山雅治)。30年前、アメリカの大学に通っていた広見(濱田龍臣)が、盲目のせいでほかの学生から絡まれているのを助けたのが同じく学生でロシア国籍を持つナギサ・イワノワ(當真あみ)。交際の後に別れてから会わないままだったが、このたびナギサ(宮沢りえ)とその娘ニナ(月島琉衣)がアメリカへの亡命を求めて中継地の日本に入国。警護に広見を指名する。北海道で身を隠す彼女たちのもとにいる広見から呼ばれた警察庁の刑事・護道心太朗(大泉洋)も北海道へ。同行したのは警視庁捜査一課の護道泉(永瀬廉)、「ラストマンを超える」と豪語しているFBIの研修生クライド・ユン(ロウン)。
天才エンジニアのナギサは大学を首席で卒業してロシアの国家企業に就職した。画期的な画像認識システムを発明して、例えば広見のような視覚障害者の役に立ちたいと願っていたのに、ロシア政府がそのシステムを軍事利用しようとしたため、亡命を望んだのだ。ナギサを逃したくないロシア政府は、金儲けの話なら何でも請け負うテロリスト集団“ヴァッファ”に依頼してナギサとニナを捕まえようとしている。FBIと警視庁の日米合同チームがふたりを警護することになったが、チームの中に内通者がいるらしく、行く先々にヴァッファが現れて……。
鑑賞後にこうして書くと、すでにいくつか嘘がありますね(笑)。ネタバレはやめておきます。
ロシアの国家企業になんて就職したら、利用されることは目に見えているじゃあないか。どうしてこんなところで働こうと思うんだと思わなくもない。どこに隠れようがヴァッファに見つかって、見つかった後もその場に居続けるのもどうなんだかと思います。最後もこれでなんで助かるのと思うも種明かしはなし。でも本作はTVドラマ版のファンの人のための劇場版なのでしょう。福山雅治と大泉洋の掛け合いが見られたらそれで良し。広見の元嫁の役が木村多江というのも面白いですね。ヴァッファのリーダー役の寛一郎がド迫力で怖かった。
TVドラマ版をご欄になっていた方にはオススメ。そうでない人はどちらでも。ドラマ版を観ていない人もじゅうぶん楽しめるとは思います。





