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今年観た映画50音順〈は行〉

《は》
『84m²』(英題:Wall to Wall)
2025年の韓国作品。Netflixにて配信。
ソウルにマイホームを持つのが夢だった平凡なサラリーマンのウソン(カン・ハヌル)は、いずれもらえる予定の退職金などすべての資産をフル投入して、17階建てのマンションの14階の1401号室を購入。しかしローンの返済が滞るようになり、一緒に入居した彼女には逃げられ、今はエアコンも使えず電気も極力点けずに過ごす毎日。終業後はウーバーイーツで多少は稼ぐも焼け石に水状態。そこへビットコインで大成功した同僚から儲ける方法を聴き、マンションを一旦売って作った金を元手にビットコインを購入する。1週間後に売却すれば800倍以上になって返ってくるはずだから、マンションを売るのをやめて違約金を請求されたとしてもじゅうぶんの儲けが出るはず。ところが、近頃マンションで噴出している騒音問題について、犯人はウソンだと疑われたうえに暴力をふるったとして警察に連行され……。
1301号室の住人から騒音を訴えられ、自分じゃないんだと1501号室に出向けば、1501号室の住人からさらに上階のせいだろうと言われる。1601号室まで上がるもまた怒られ、最上階のペントハウスにいるのが賃貸に出されているそこらじゅうの部屋の大家かつ住民代表(ヨム・ヘラン)だと教えられます。代表は高速鉄道の開業時には地価が高騰すると見込んでマンションごと自分のものにするために、ウソンを追い出そうとしているのでした。それに手を貸しているふりをして、その実、スクープを書こうとしているのが1501号室を賃借するチンピラ記者(ソ・ヒョヌ)。面白いけど、ダークすぎて。もうちょっと笑える作品であってほしかった。同様にマンションの騒音を扱ったホラー『層間騒音』と併せて観るのが面白いかも。

《ひ》
『秘密 許せない真実』(英題:Unforgivable)
2023年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開。
公衆トイレで惨殺された男性の口に紙切れが詰められているのを発見した刑事ドングン(キム・ジョンヒョン)は、そこに記された日付を手掛かりに捜査を進める。紙切れは10年前に自殺した青年ヨンフンの日記の一部で、ヨンフンは被害者の兵役時代の後輩で、当時被害者から酷いいじめに遭っていたらしい。やがてドングンはヨンフンがかつての同級生だったことに気づく。ドングンとは親友と呼んでもよい仲だったにもかかわらず、あるときヨンフンがゲイではないかと思い、以来ドングンはヨンフンを遠ざけて誰かにいじめられるのを見ても知らん顔していたのだ。最初の殺人事件を皮切りに、ヨンフンのいじめに関わっていたとおぼしき人間がひとりまたひとりと殺され、現場には次の殺人を匂わす手掛かりの紙切れが残されている。最後にはドングン自身が犯人のターゲットとなって……。
犯人はヨンフンの母親。心優しき一人息子が自ら命を絶ち、真相にたどりついた彼女は憎き相手を全員殺す決意をします。スリリングな展開の中にドングンの後悔も伝わってきて話に没入した作品でした。と同時に、ゲイのみならず多様な性的指向が世の中には存在すること、そしてこちらがそうではない場合にどのように接すればよいかの難しさについても考えさせられました。

《ふ》
『フランケンシュタイン』(原題:Frankenstein)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。一部の劇場で公開された折に観逃し、結局自宅にて。
イギリス人作家メアリー・シェリーが1818年に匿名で出版したゴシック小説が200年以上経ってもこんなふうに映画化されています。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)や『ナイトメア・アリー』(2021)のメキシコの鬼才ギレルモ・デル・トロが手がけたとなれば面白いのは当たり前。
ヴィクター・フランケンシュタインは、高名な医師である父親がヴィクターの弟ウィリアムにばかり愛情を注ぐことに沸々と怒りを燃やし、必ずや父親を超えると決める。外科医となったヴィクターがとある場で死体蘇生術を披露したところ、外科医師会から追放されるはめに。それでも生命の創造に固執しつづける彼に協力を申し出たのは武器商人ハーランダー。彼から実験場所用の廃墟と資金を提供されたヴィクターは、極秘に手を入れた死体を切り貼りして新たな命を創り出すことに成功。しかし生まれた「怪物」には知性が伴わず、いくらヴィクターが教えようとしても発する言葉は「ヴィクター」だけ。ある日、廃墟を訪れたウィリアムと婚約者エリザベス。怪物と遭遇したエリザベスは驚くことも気味悪がることもなく、温かい眼差し。怪物もエリザベスには心を開いたかのようだが、ヴィクターには相変わらず進歩の様子を見せない。怪物を鬱陶しく思いはじめたヴィクターは廃墟に火をつけてすべての消滅を図るのだが……。
冒頭は氷海で動けずにいた船の乗員がヴィクターを見つけて救助するシーンから始まります。船長がヴィクターを船室で介抱していると海から聞こえてくるヴィクターを呼ぶ声。ヴィクターが訥々と語る、自身が創造した怪物の話。これが第1部。そして第2部ではヴィクターを追いかけて船に乗り込んできた怪物が語る、廃墟を燃やされた後に生き延びた自分の話。ヴィクター役にオスカー・アイザック、怪物役にジェイコブ・エローディ、エリザベス役にはミア・ゴス。そして船長役のラース・ミケルセン(マッツ・ミケルセンの実兄)が素晴らしい。怪物の師となる盲目の老人を演じたデヴィッド・ブラッドリーとのやりとりには涙が出ました。怪物を創った人こそ怪物。壮大な許しの物語。ラストシーンも美しい。これはやっぱり劇場で観たかった。

《へ》
『ヘヴンズ×キャンディ』
2024年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
二次元オタクの天翔(たかと)(大成)は母親を亡くした後、父親の悠輔(竹本泰志)から実はゲイであることをカミングアウトされて衝撃を受ける。悠輔は自身が経営する店の従業員だったシンヤ(結城駿)と恋仲になり、現在は悠輔と天翔、シンヤの3人暮らし。シンヤが母親代わりとなって家事などもすべてこなし、悠輔以上に天翔のことを気遣ってくれるが、まだ打ち解けることはできない。ある日、天翔は大好きなアニメ“ヘヴンズ×キャンディ”のイベントのために久しぶりに外出。その帰り、聖地巡礼に訪れた喫茶店で財布を忘れた天翔を助けてくれたのが永遠(とわ)(向理来)。永遠は人気AV男優でノンケを自認。天翔も自分はゲイではないと思っていたのに、瞬く間に恋に落ちて……。
本作を観る前に“有吉クイズ”で女性向けAVの特集をしていたときに、大人気のAV男優だという向理来のことを知りました。まぁ、演技が上手いとは言えないけれど、AVに演技はそう必要ないですもんねぇ。過激なBLです。話のネタに。

《ほ》
『保安官』(英題:The Sheriff in Town)
2016年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開だったところ、なぜか今年DVD化。
熱血刑事のテホ(イ・ソンミン)は麻薬組織の大元締め“ポパイ”が潜伏中だとおぼしき部屋に応援を待たずに踏み込む。そこにポパイの姿はなく、訳も知らずに運び屋をやらされていたジョンジン(チョ・ジヌン)を捕まえるも、テホは過剰捜査でクビに。その後、自らが住む釜山北東部の町・機張の治安を守るボランティア班長を務めていたところ、あのジョンジンが現れる。テホのおかげで懲役20年は食らうところ2年で済んだと言うジョンジンは、テホのことを恩人と呼び、親しげな顔を見せる。機張の住人もジョンジンから商売の話を持ちかけられてほくほく。しかしどこかおかしいと、テホはジョンジンに疑念を抱きはじめる。本当はジョンジンは麻薬の密売に関わっているのではないか。住人たちに警告しても、テホがジョンジンを妬んでいるだけだと思われ、テホの言うことを信じるのは義弟のドクマン(キム・ソンギュン)のみで……。
まぁまぁ魅力的なキャストなので日本でも公開すればよかったのにと思ったけれど、観てみりゃ未公開も納得。テンポがイマイチよくなくて、序盤は特にだるい。テホの人柄にも惹かれず、自分が注目されたい人にしか思えません。ただ、ジョンジンこそがポパイだとわかる終盤は面白い。機張の住人の中にはバイプレイヤーキム・ジョンスもいます。

今年観た映画50音順〈な行〉

《な》
『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』(原題:Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)、『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』(2022)に続く“ナイブズ・アウト”シリーズの第3弾。第1弾は劇場公開されたのに、第2弾以降は配信のみになってしまいました。この第3弾は今月配信がスタートしたばかりです。
不良上がりのボクサーだったジャド・デュプレンティシーは司祭に転身。かつての自分のような若者を救いたいと願っていたのに、あるとき無礼な助祭を殴ってしまったがゆえに田舎の教区に異動を命じられる。その教区の司祭ジェファーソン・ウィックスの説教はまるで人を憎むことを推奨するように扇情的で、ジャドは唖然。信者は皆ジェファーソンを盲信している様子。この状況をなんとか変えなければと思い、ジェファーソンに内緒で説話の会を設けたところそれがバレ、教区の全員を敵に回してしまう。ところが聖金曜日の礼拝中にジェファーソンが急死。倒れたジェファーソンのもとへ最初に駆けつけたジャドが容疑者になるが、地元の警察署長から依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランがやってくる。ブノワとジャドは手を組んで真相の究明に挑むのだが……。
2時間超は長いよと思いながらも、キャストがこうも魅力的だと集中力が途切れません。ブノワにはもちろんダニエル・クレイグ。ジャドにはジョシュ・オコナー。ジェファーソンがジョシュ・ブローリンで、彼の忠実な秘書マーサ・ドラクロワ役がグレン・クローズ。地元の警察署長ジェラルディン・スコットにはミラ・クニス、町医者のナット・シャープをジェレミー・レナーが演じています。ジャドを教区に送り込む司教ラングストロム役のジェフリー・ライトもよかったな。どう考えても真犯人はマーサでしょ。そうなんですけど、動機が明かされると気の毒になる。道義に悖るダメ司祭をなんとかして。

《に》
『人間爆弾 立ち止まったら、爆発』(原題:Todos los Nombres de Dios)
2023年のスペイン作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開、WOWOWにて放映。
タクシー運転手のサンティがマドリード空港へ客を送り、帰宅しようとしたそのとき、テロリストによる爆破事件が発生する。逃げ惑う人々のなかに怪我人を見つけて自分のタクシーへと運び込むが、なんとその怪我人はテロリスト3人組のうちの1人、ハザムという青年だった。3人で自爆テロを実行するはずが、ハザムは怯えて実行できず。体に爆弾を巻き付けたままのハザムに銃で脅されて車を走らせることになったサンティ。途中でハザムは爆弾の取り外しに成功するが、サンティは眠気に襲われて事故る。重傷を負ったハザムを見捨てられずにいると、車が通りかかる。ところがその車に乗っていたのはハザムを追ってきたテロの首謀者で、ハザムを即銃殺。殴られて気絶したサンティが目覚めると、今度はサンティの体に爆弾が巻き付けられていた。その爆弾には高精度の振動センサーが備わり、歩き続けなければ爆発するとテロリストが告げる。そのままの姿で助けを求めて街に出るサンティをネットで世界中が見守るなか、着任わずか3日目の女指揮官ピラールのもと、特殊部隊や爆弾処理班が出動して……。
B級としか思えない邦題が付いていますが、シリアスで意外と面白い。この事件の前に長女を亡くし、気力を失っているサンティと妻ラウラ、長男ラウルのやりとりも○。

《ぬ》
『ヌルボムガーデン』(英題:Spring Garden)
2025年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
韓国の忠清北道堤川に実在する廃屋“ヌルボムガーデン”は、国内三大心霊スポットのひとつと言われているそうです。そこを舞台にしたホラーフィクション。
ある日、ソヒが目覚めると、隣で眠っていたはずの夫チャンスが首を吊って死んでいた。妊娠中だったソヒは葬儀の日に姑たちから責められたせいもあってか流産。後日、チャンスがソヒには内緒で閑静な田舎に中古の一軒家、通称ヌルボムガーデンを購入していたことを知る。そこへ引っ越すと言うと姉のヘランから引き止められるが、生まれてくる子どもとソヒのことを考えて夫がひそかにリフォームを進めていてくれた家だから、住みたい。ところが転居後、ソヒのみならず遊びに来たヘラン一家が幻視に襲われたり、何者かに取り憑かれたかのようになったりして……。
死んだチャンスの姿を何度も目にしたことから、彼が何か言いたいのではないかと思って調べはじめます。チャンスはヌルボムガーデンへリフォームにかよっていたとき、首を吊って自殺を図ろうとしていた女子高生ヒョンジュを助けて看護。世話を焼かれたヒョンジュがチャンスに恋心を抱いてふたりはそういう関係に。妊娠したヒョンジュはこれでチャンスと家族になれると信じるもチャンスと言い争って事故死。家族というものに憧れつづけたヒョンジュが来訪者に取り憑いていた模様。って書いてみると結構面白い話なのに、かなりグダグダです。ちょっと勿体ない。

《ね》
『ねこのガーフィールド』(原題:The Garfield Movie)
2024年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
親に捨てられた子猫のガーフィールドを拾ったのは心優しき青年ジョン。今は犬のオットーも招き入れ、ジョンと一緒に楽しく暮らしている。ところがある日、自分を捨てた父親ヴィックが現れる。トラブルを抱えるヴィックは、大量のミルクを用意しなければ命が危ういらしい。いまごろ父親面されてたまるかと思うガーフィールドだったが、巻き込まれてしまい……。たしか昨年の劇場公開時は吹替版の上映ばかりだったかと思いますが、それを観逃したおかげでDVDをレンタルしたら、字幕版を鑑賞することができました。ガーフィールドの声を担当するのはクリス・プラット。ヴィックをサミュエル・L・ジャクソン、ジョンをニコラス・ホルトって、その声で観られるのは嬉しい。ガーフィールドのことを全然知らないし、子ども向けだとばかり思っていたら、ヴィックがガーフィールドを手放すことになったときの真相に不覚にも涙が。

《の》
『ノスフェラトゥ』(原題:Nosferatu)
2024年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
サイレント映画時代の巨匠F・W・ムルナウはドイツ表現主義映画を代表する映画監督。世界的に有名な彼の古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)は、ブラム・ストーカーの怪奇小説『吸血鬼ドラキュラ』を非公式に映画化した作品なのだそうです。非公式に映画化ってどういうことなのかよくわかりませんが、要するに原作者の許諾を得ていないということなのでしょうね。ちなみにストーカーはアイルランド人で、ムルナウは映画化に際して登場人物にすべてドイツ語名を与えています。著作権の侵害を避けるためだったとも推測されていますが、ムルナウにそんな気はなくて、単にドイツの映画ファンを楽しませるためにドイツを舞台にしただけとも言われています。低予算映画の走りなのかしら。とにもかくにも吸血鬼映画はいつの時代も私たちを楽しませてくれます。このたびムルナウ作品をリメイクしたのは、『ウィッチ』(2015)や『ライトハウス』(2019)のロバート・エガース監督。
1838年、ドイツの港町ヴィスブルク在住の青年トーマスは不動産屋の社員。ある日、上司からオルロック伯爵なる人物が山奥の城を購入希望だと聞かされる。足が不自由な伯爵はこちらに来ることはできないから、トーマスにあちらへ出向いて契約に係る手続きを済ませるように指示される。トーマスの妻エレンは長年過去とも未来とも思える悪夢に悩まされており、不吉な予感がすると言ってトーマスを引き留めるが、仕事を断るわけにもいかない。しかしエレンの予感は的中。実は伯爵の正体は吸血鬼ノスフェラトゥで……。
ノスフェラトゥにビル・スカルスガルド、トーマスにニコラス・ホルト、エレンにリリー=ローズ・デップ、オカルトに精通する研究者にウィレム・デフォー。リリー=ローズ・デップの演技が凄かったけど、気持ちの悪いシーンが多すぎる。ノスフェラトゥに取り憑かれた人々が動物をバリバリ食べるシーンとか、オエーッです。エレンが自分を犠牲にして皆を救う、悲哀に満ちた最期。

今年観た映画50音順〈た行〉

《た》
『TATAMI』(原題:Tatami)
2025年のアメリカ/ジョージア作品。Amazonプライムビデオにて配信。
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子柔道世界選手権。イラン代表選手のレイラ・ホセイニは監督のマルヤム・ガンバリと共に会場入りし、金メダル候補を相手にしても怯まず順調に勝ち進む。ところがこのままではイスラエル選手と対戦の可能性が出てきた途端、負傷を装って棄権するようにとマルヤムを通じてイランの柔道協会から指示される。イラン初の金メダルがかかっているというのに、そんな理不尽なことがあろうかと抗うが、当局は本国でレイラを応援中の両親を逮捕。危険を察知して実家から出ていたレイラの夫ナデルと幼い息子アミルは難を逃れるが、見つかれば何をされるかわからない。マルヤムも当局から脅され、レイラに棄権するように迫り……。
敵対国とスポーツで対戦してはいけない意味が私にはわかりません。協会からは何度も脅され、レイラが従わないと見るや外交官がやってきて阻止しようとする。彼女がどういう状況にあるのかを知った世界柔道連盟の関係者はレイラをなんとか救いたいと考えるけれど、なんてったってレイラに試合をやめさせようとしているのはイランの国家指導者。そんなのに対抗したら何をされるかわかりません。結局権力に屈しない道を選んだレイラは準決勝で敗れますが、試合後に家族やマルヤムと一緒に亡命。以後、イランはすべての国際大会に出ることを禁じられます。イランではレイラもマルヤムも裏切り者扱い。数年後のフランス大会に難民代表として出場するシーンで終わります。イスラエル出身のガイ・ナティーヴとイランの女優ザール・アミールが共同で監督を務めています。マルヤムを演じているのがそのアミール。不屈の精神の持ち主なのでしょうね。こんなふうに両者が手を取り合って映画を撮ることだってできるのに。心を痛めている人がたくさんいるはず。

《ち》
『茶飲友達』
2022年の日本作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
モチーフとなっているのは、高齢者をターゲットにした会員制売春クラブが2013年に売春防止法違反で摘発された事件なのだそうです。監督は『ソワレ』(2020)の外山文治。ENBUゼミナール“ENBUシネマプロジェクト”第10弾。
新聞に「茶飲友達募集」という3行広告を出し、連絡してきた高齢男性に高齢女性を斡旋する売春クラブ“ティーフレンド”。経営者はかつて風俗で働いていた30代の女性・マナ(岡本玲)。厳しい母親と良い関係を築けなかったマナは、ティーフレンドのスタッフたちをファミリーと呼び、どんな困り事にも親身に対応している。ある日、スーパーで万引きしようとしている60代の女性・松子(磯西真喜)を助けると、松子にもティーフレンドで働いてみないかと誘う。一時は自殺も考えた松子だったが、マナに出会ってからは生き生きとした毎日を送るようになるのだが……。
実際には70代の男性が経営者だったとのこと。それをこんな30代の女性に置き換えたことにより金儲けを目的としたクラブだったという意味合いが薄まっているように思います。伴侶に先立たれた独居老人たち。金はあるけどしゃべる相手がいない。セックスしたかったわけではなく、単にしゃべる相手がほしくて連絡してみただけだったとしても、バイアグラをあてがわれて服を脱がされたらそんな気になっちゃうんですね。それがホッとする瞬間になり、このまま死ぬだけだと思っていたのに人生が変わる。その幸せそうな表情がなんとも言えなくて。老人ホームにも女性を送り込むことで一気に顧客を拡大するもビジネスが露見することに。外山監督はほかにも老老介護や高齢者の婚活を描いた作品を撮っています。観てみたい。

《つ》
『ツイスタータウン ジョプリン竜巻を生き延びて』(原題:The Twister: Caught in the Storm)
2025年のアメリカ作品。Netflixにて配信。
2011年5月22日にミズーリ州ジョプリンで発生した巨大竜巻。人口約5万人の中規模都市を突き抜けたこの竜巻は、時速200km超、ピーク時の幅はなんと1.5km超。推定8千戸の家屋が被害を受け、死者は158人に。アレクサンドラ・レイシー監督は竜巻から生き延びた若者たちの視点で描いています。卒業式の直後に竜巻襲来って、これは映画か何かですかと聞きたくなるほどあり得ない惨劇。感染症で生死の境をさまよいながらも、人生で経験したすべてのことに意味があると語る男性、ゲイであるがゆえにかつてはいじめられたこともあるけれど、それでもこの町が好きだという男性の話が印象に残っています。『ツイスターズ』(2024)が大好きだった私は好奇心のみでこのドキュメンタリーを鑑賞しましたが、竜巻がもたらした被害には言葉を失う。再建に懸ける住人の不屈の魂。

《て》
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(原題:Thelma)
2024年のアメリカ/スイス作品。Amazonプライムビデオにて配信。
ロサンゼルス郊外在住のテルマは93歳。愛する夫テディに先立たれた後はひとりで暮らしているが、娘のゲイルとその夫アランは近居しているし、24歳の孫ダニーは頼れる相談相手で、パソコンやスマホの使い方をいつも丁寧に教えてくれる。ところがある日、その心優しき孫を装った電話に騙される。ダニーのふりをした男から「車で妊婦を轢いてしまい、留置場にいる。保釈金が必要だ」と言われて気が動転。言われるがままに1万ドルを用意して指示された住所宛てに送る。事情を聴いた娘夫婦とダニーは、テルマが無事だったのだからそれでよいと言ってくれたものの、テルマはどうしても1万ドルをあきらめきれない。しかも隣の部屋から漏れ聞こえてくるのは、「テルマのぼけが始まっているからひとり暮らしはさせておけない」などなどという娘たちの声。名誉を挽回するためにも自分で犯人を見つけて金を取り返したいと思い……。
役名のテルマ・ポストは本作で監督を務めたジョシュ・マーゴリンの祖母の実名。祖母テルマが電話による詐欺に遭ったことがモチーフとなっているそうです。テルマ役は御年96歳の大ベテラン女優ジューン・スキッブ。詐欺に遭ったと知ったときの表情を見ると『ジェリーの災難』と同じように切ない。犯人探しを思い立ったテルマがスマホで旧友に片っ端から電話をかけると、みんな他界しているところは失礼ながらちょっと笑っちゃいました。唯一生きていたのは友人の夫でどちらかと言えば苦手だった爺ベンだけ。ふたりしてシニアカーで疾走する様子が頼もしい。見事に突き止めた犯人は、マルコム・マクダウェル演じるアンティークの照明屋の店主。世間の人たちは何でもかんでもネットで購入するようになってこんな店は流行らないからと犯罪に手を染める。それにしたって、老人が老人を騙す時代なんですね。ベンを演じたリチャード・ラウンドトゥリーの遺作となりました。安らかな眠りを。

《と》
『トラブル・ガール』(原題:小曉)
2023年の台湾作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
ADHD(注意欠如・多動症)の少女シャオシャオは学校で疎まれて孤立している。父親は出張ばかりで家にはほぼ不在。ひとりでシャオシャオの世話をする母親はいっぱいいっぱいで、シャオシャオのことを相談していた担任教師ポールと不倫の仲に。先生だけが自分のことを気にかけてくれる存在だと思っていたのに、母親といつのまにかそんな関係になっていることに気づいてしまったシャオシャオは……。
前知識なく観はじめたら、シャオシャオがADHDということが最初はわからなくて、どうにも手のかかる子だなぁ、母親も先生も大変だなぁなんて思っていました。私が小学生だった頃は、学校にこんな子はいくらでもいたけれど、病名なんて付いていませんでしたから。みんなと友達になりたいシャオシャオ。でも同級生たちは彼女のことを怒らせようとからかうばかり。怒って反撃すると、今度は保護者たちから問題視される。なぜみんな優しくなれないのかと腹立たしくなるものの、私ならどうするだろうと自問。どうにもできないと思うのでした。母親役のアイビー・チェンの葛藤ももっとも。先生役にはテレンス・ラウ。やっぱりイケメン。

今年観た映画50音順〈さ行〉

《さ》
『サイレンサー』(原題:Fast Charlie)
2023年のアメリカ/イギリス作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。ピアース・ブロスナン主演にもかかわらず、日本では劇場未公開。
ミシシッピ州ビロクシに暮らすチャーリーは熟練の殺し屋。海軍を名誉除隊した後、恩義あるマフィアのボス・スタンに忠誠を尽くし、近頃物忘れの激しくなったスタンの面倒を見ている。そろそろ一線を退いて大好きなイタリアで隠遁生活を送ろうと考えていた矢先、敵対組織で躍進中のチンピラ・ベガーの襲撃に遭い、スタンを含む仲間を全員殺されてしまう。たったひとりの生存者となったチャーリーは、最近自らの手で殺した標的ロロが何やらベガーの弱みを握っていたことを知り、ロロの妻マーシーのもとを訪ねる。ロロとマーシーの婚姻関係はとっくに破綻していたから、ロロが死んでマーシーはむしろ清々した様子。チャーリーはマーシーの協力を得て、ベガーが執拗に狙うものを見つけることに。この仕事を片付けたら殺し屋人生とはおさらば。最後にすべて清算しようとするのだが……。
近年のピアース・ブロスナンはといえば、あまりカッコイイ役がありませんでした。この彼はとても渋くてカッコイイ。マーシー役のモリーナ・バッカリンが綺麗で見惚れました。ピアースは今年72歳。ふた回り以上年下のモリーナと恋に落ちるとかやめてよと思っていたらそうなる(笑)。ただ、クリント・イーストウッドみたいに今にも倒れそうではないし、キスシーンすらない控えめさがよかった。スタンを演じたジェームズ・カーンの遺作となりました。合掌。

《し》
『シンパシー・フォー・ザ・デビル』(原題:Sympathy for the Devil)
2023年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
妻の出産に立ち会うべく急いで車を走らせるデイビッド(ジョエル・キナマン)。病院の駐車場に到着し、妻のもとへ駆けつけようとしたその瞬間、見知らぬ男(ニコラス・ケイジ)が車に乗り込んでくる。銃を向けられて車を出すように言われ、男がいったい誰なのか、目的は何なのかもわからないまま、指示に従うしかなくなったデイビッド。事情を聞き出そうとするも男はまったく取り合わず、説得するのはもちろん無理。脱出を試みるたびに失敗し、妻子の身に危険が及びそうで困り果てたデイビッドは……。
不愉快なことこのうえない作品です。ほとんど二人劇のごとく話は進みますが、ニコラス・ケイジ演じる男が「おまえ誰やねん、はよ死んでくれ」と言いたくなる奴。エンディング間近になって、ようやく男の妻子がかつてデイビッドのせいで死んでしまったことがわかるけど、逆恨みもいいとこ。百歩譲ってその恨みが理解しうるものだとしても、だったらデイビッドだけ殺せばいいのに、むやみやたらと車を走らせ、行く先々で関係のない人を殺す。車を停めた警官を射殺したかと思えば、立ち寄ったダイナーの客や従業員も躊躇なく撃ち殺し、イカれた奴としか思えません。やっぱり苦手、ニコラス・ケイジの顔。

《す》
『スタントマン 武替道』(原題:武替道)
2024年の香港作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
香港映画の黄金期にアクション監督として活躍したサム(トン・ワイ)は、映画の出来を最優先するあまり撮影現場で重傷者を出したことがある。そのせいで「命を軽視する監督」と揶揄されてしばらく仕事から遠ざかっていたが、旧知のベテラン監督に請われ、アクション監督として復帰する。共に組むことになったのは、安全を最優先にしつつ誰もが認める中堅アクション監督ワイ(フィリップ・ン)が率いるチーム。ワイのクルーは無茶ばかり言うサムに従おうとしない。サムは助監督として若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)を抜擢し、ワイとの間の問題解決を押しつける。スタントマンでは食っていけないからやめるようにと兄から言われていたロンは、自分の夢を叶えようと奮起するのだが……。
サムがあまりに勝手なので、終盤までイライラしました。口を開けば「昔はこうだった」。金とは関係なく体を張ったとか、納得行くまで撮影したとか、許可を取らなくても路上ロケを敢行したとか。そりゃ誰も聴きません。そのうえ、若い頃に仕事第一だったせいで冷たい娘チェリー(セシリア・チョイ)になんとか機嫌を直してもらおうとあれこれするのも鬱陶しい。陶芸の工房を持つ娘に素人が手作りした陶器をプレゼントして喜ぶと思いますか。そうすれば娘が喜ぶとアドバイスするロンもロンだ。何はともあれ、本作を観たかったのはテレンス・ラウが出ていたからなので、彼を見られただけでじゅうぶん。そして、イライラすると言いつつも、サムたちベテラン3人が並んで映画を観ているシーンにはグッと来たし、ロンに説教ばかりしていた兄がダンボールを用意してくれるところも泣きました。結局泣いとるんかい!

《せ》
『成功したオタク』(英題:Fanatic)
2021年の韓国作品。各国の映画祭で上映され、日本では2024年に春に公開。同年秋にU-NEXTにて先行独占配信された後、今年Amazonプライムビデオにて配信。
韓国芸術総合学校の映画科に通う女子大生オ・セヨンが監督を務める異色のセルフドキュメンタリー。彼女は中学生の頃からK-POPスターチョン・ジュニョンの大ファン。韓服を着て会いに行ったことが功を奏し、推しのジュニョンに名前を覚えてもらったばかりかテレビ共演まで果たす。それゆえファンの間では「成功したオタク」として一目置かれる存在。ところが彼女が大学2年になった2019年、ジュニョンが性加害事件で逮捕され、集団性暴行罪で有罪判決を受ける。好きで好きでたまらなかった推しが悪事を働いて消え去るということ。推し活がすべてだった彼女はこれからどうしてよいかわからず、同じ思いをしているはずの推し活仲間のもとをカメラを携えて訪ねることに。ジュニョンのファンのみならず、ジュニョン同様に何らかの罪を犯して逮捕されたスターのファンにもインタビューしてそれぞれの思いを聴きます。
「推しがある日突然犯罪者になる」というのは確かに衝撃的。しかも性加害事件というのはある意味どんな事件よりも衝撃的ではないでしょうか。単にファンに聴いて回るだけではなく、記者パク・ヒョシルにインタビューしているのも良いところ。ジュニョンはこの事件の3年前にパク記者によって盗撮行為をスクープされましたが、検察が嫌疑不十分で処分なしとした結果、パク記者は世間から激しい非難を受けるはめに。結局、そのスクープが正しかったということですよね。オ監督はパク記者に会い、謝罪をしています。パク記者はつまりは熱狂的ファンはパク・クネ元大統領の無罪を信じる支持者と同じだと表現していて、すかさずパク・クネ支持者の集会にオ監督が潜入するのも面白い。ドキュメンタリー作家としての彼女のこれからに期待します。

《そ》
『ソーシャル・クライマーズ』(原題:Sosyal Climbers)
2025年のフィリピン作品。Netflixにて配信。
不動産販売の職に就くジェサ(♀)は、ある富豪の葬式で故人の息子とおぼしき男性に声をかけるが、彼は故人のファイナンシャルアドバイザーのレイ(♂)だった。仕切り直して今度こそ故人の遺族に声をかけ、故人が不動産の購入を検討していたことを話すと、遺族たちからこんな場で不謹慎だと怒られる。助け船を出してくれたのがレイで、彼のおかげで遺族と取引が成立して万々歳。これが縁でふたりは交際を開始、同棲に至る。しかし投資詐欺にひっかかったレイは、ウマい話があると投資を持ちかけた近隣住民から金の返済を求められて大慌て。ジェサが管理する不動産をとっとと売却して手数料を得れば、それで金は返済できるはず。ふたりは売り物の豪邸を丹念に掃除して買い手が来るのを待っていたが、ふたりを新しい住人だと勘違いして隣人が挨拶にやってくる。真実を話そうとするも、この高級住宅街で開催される仮装コンテストの優勝賞金の金額を知り、身分を偽って参加するのだが……。
「ソーシャルクライマー」とは、上流階級入りを目指す人のことだそうです。どこの国の作品かもわからないまま観はじめましたが、まず知り合ってふたりが何度も会ってヤリまくってから「僕とつきあって」「はい」というやりとりに唖然。え、まだつきあってたんじゃないのか(笑)。良くも悪くもないラブコメだと思っていたら、残り30分というところでなかなかのサスペンスフルな展開に。ふたりの嘘を知ったあくどい美術商が、絵の才能を持つレイにガンガン描かせて金持ちに売りつけようとします。悪役の顔も台詞もめっちゃ嫌な感じで、しかも古くさい。ひと昔前の映画を観ているような気分になりました。

今年観た映画50音順〈か行〉

《か》
『カウントダウン』(原題:焚城)
2024年の香港作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
1996年、財政長官のファンは他国で排出された金属ゴミを積極的に輸入し、経済大国となる道を選ぶ。しかしそのせいで金儲けを目論む悪徳業者が横行し、危険物が持ち込まれたコンテナターミナルで火災が起きる。この事故でファンの妻を含む消防士たちが死亡。義弟は姉の死の責任をファンに問い、決して許そうとしない。これをきっかけにファンは政界を離れると学位を取得して環境汚染の専門家となる。2007年、リサイクルヤードで火災が発生。すぐに鎮火可能と思われたが、火災発生場所から高濃度セシウムが検出される。折しも香港には台風が接近中。セシウムが水に触れれば香港全域が放射能汚染に見舞われるだろう。国民がパニックに陥ることを恐れる政府高官は事態を隠そうとするが、ファンは反対。万が一のときのことを考えて国民に逃げる時間を与えるべきだと主張し……。
ファン役がアンディ・ラウ。この人はいくつになっても男前だけど、やっぱり「正しい人」なんですよね。まぁ、正しくないとアンディ・ラウじゃないか。政府高官役にカレン・モク。この人の最近の役って、香港のアンジェラ・バセットみたい(笑)。火災現場の迫力が凄いので、ストーリーはともかく、大画面で観たかった作品です。

《き》
『キラー・ザ・ハイヒール』(原題:This Game’s Called Murder)
2021年のカナダ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
ファッション界の大物ウォーレンドルフ(ロン・パールマン)は、深紅のハイヒールの斬新なCMで有名になるが、実はそのCMはいわゆるスナッフフィルムで、撮影では本当に殺人がおこなわれていた。深紅のハイヒールを履きたい女性軍団がウォーレンドルフ社の輸送車を狙って襲撃をかけると、積み荷はハイヒールではなくインスタントラーメンでがっかり。とっとと運転手を殺すと、輸送車ごと森の奥の池の端に放置する。ラーメンの中に金塊を隠していたウォーレンドルフ夫人(ナターシャ・ヘンストリッジ)は、輸送車が消えたと知って怒り狂う。こんな夫婦の娘ジェニファー(ヴァネッサ・マラーノ)はインフルエンサー。父親がハイヒールではなく個人情報を売って儲けていることを知っているし、スナッフフィルムを撮影していることも知っている。また、母親が金塊を持って浮気相手と逃げようとしていることや、輸送車の行方を突き止めるために使用人を殺していることも承知のうえで……。
邦題からハイヒールが殺人鬼になると思っていたら違った(笑)。ちょっとジャン=ピエール・ジュネを思わせるアーティスティックな作品でした。

《く》
『クマ男 シークレット大捜査』(英題:Bear Man)
2023年の韓国作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。日本では劇場未公開。
1997年、種の保存研究所ではクマを野に放ち、成長を見守るプロジェクトを実施していた。生息地に馴染んで出産まで果たしたクマもいるが、ウンナムとウンブクという2匹のクマは行方をくらましたまま100日が経過。ウンナムの追跡装置に反応があったのを見て研究所長のナ・ボクチョン(オ・ダルス)とその妻(ヨム・ヘラン)が森へ入ると、そこには人間の少年と化したウンナムがいた。夫妻はウンナムの秘密を隠して自分たちの子どもとして育てる。時が経ち、人間より成長の早いウンナム(パク・ソンウン)は見た目はオッサンながら25歳の青年としてYouTuberの親友チョ・マルボン(イ・イギョン)と穏やかに毎日を過ごしている。耳と鼻の利くエース警察官として仕事していた時期もあったのに、自分の寿命が25歳だと知って意気消沈、職務怠慢で解雇されてしまったことを親には言えないまま。一方、ウンナム同様に人間と化したウンブクはマフィアのボスであるイ・ジョンシク(チェ・ミンス)に拾われ、ジョンシクの悪事の片棒を担がされかけていた。麻薬捜査班はウンナムにウンブクのふりをさせてジョンシクのもとへ送り込もうとするのだが……。
クマがニンニクとヨモギを食べつづけると人間に変身するという建国神話があるのですね。若干スベり気味ではありますが、それなりの人気俳優が出演してこんなアホな作品を撮ったというのは憎めません。最後にチョン・ウソンまでカメオ出演していて笑った。監督のパク・ソングァンはお笑い芸人でもあるそうな。さらにお笑いの質を上げてもらえると嬉しいです。

《け》
『啓示』(原題:Revelations)
2025年の韓国作品。Netflixにて配信。
ソン・ミンチャン(リュ・ジュンヨル)が牧師を務める教会へ、信者の少女シン・アヨン(キム・ボミン)の後から中年男性クォン・ヤンレ(シン・ミンジェ)が入ってくる。女刑事イ・ヨニ(シン・ヒョンビン)の妹は、かつてヤンレに拉致監禁された。なんとか逃げ出してヤンレは逮捕されたものの、ヤンレの不幸な生い立ちに世間が同情。思いのほか刑が軽くなったせいでヨニの妹は自殺したから、ヨニはヤンレを許せない。そんな折、ミンチャンの息子がいなくなり、ミンチャンはヤンレの性犯罪歴を知って疑う。結局それは勘違いで、息子はすぐに見つかるが、ミンチャンに尾行されていることに気づいたヤンレと山中で揉み合いに。滑落したヤンレは血まみれになり、息を引き取ったようだ。後日、身元不明の怪我人が教会のボランティア先の病院にいると聞く。ヤンレに違いない。ミンチャンは彼をひそかに連れ出し、アヨンの居場所を吐かないヤンレを殺すと決めて……。
監督は“新感染”シリーズやアニメ『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016)を撮ったヨン・サンホ。教会に真面目に仕えているのに、妻は浮気しているし、性犯罪者を受け入れてしまうし、散々なミンチャン。なぜ自分がこんな目に遭うのかと思っているときに空を見て、神の啓示だと思い込みます。キム・ドヨン演じる犯罪心理学者が、どれも偶然の出来事なのに、ミンチャンはすべて啓示のせい、クォンはすべて怪物のせい、ヨニはすべて自分のせいと、都合よく誰かのせいにしているする共通点があると言っているのが面白い。「見えるものだけ、見ましょう」、確かにその通り。

《こ》
『コンパニオン』(原題:Companion)
2025年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
アイリスはスーパーで買い物中にジョシュと運命的な出会いを果たす。しばしの交際期間を経てジョシュの友人で富豪のセルゲイが暮らす人里離れた豪邸を訪問。セルゲイの彼女キャットやゲイカップルのイーライとパトリックにアイリスをお披露目される。翌朝、二日酔いだというジョシュを残してアイリスがひとりで湖畔へ散歩に行くと、追いかけてきたセルゲイに襲われそうになり、アイリスはなぜかポケットに入っていたナイフでセルゲイを殺害してしまう。血まみれで邸に戻ると、ジョシュから衝撃の事実を聞かされて……。
アイリスは実はジョシュが購入したロボット。ジョシュにぞっこんになるように設定されています。セルゲイとキャットはセルゲイの金目当てに、本来は人間や動物を攻撃しないように製造されたアイリスを違法改造してセルゲイを殺すように仕向けたのでした。知能や身体能力も購入者の思いのままに設定可能なロボット。すべてジョシュに従うように造られているアイリスがどのように応戦するかが見物(みもの)。やがてパトリックもロボットであることがわかって、話はどんどん面白くなります。ロボットは嘘はつけないというのがいいですね。できればここでネタバレなんか読まずにご覧いただきたい1本。『Mr.ノボカイン』であんなに善い人だったがクズ男のジョシュを演じています。セルゲイ役は『ジュラシック・ワールド/復活の大地』でこれまたクズ男が似合っていたルパート・フレンドで、殺されても気の毒でも何でもない(笑)。