《さ》
『サイレンサー』(原題:Fast Charlie)
2023年のアメリカ/イギリス作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。ピアース・ブロスナン主演にもかかわらず、日本では劇場未公開。
ミシシッピ州ビロクシに暮らすチャーリーは熟練の殺し屋。海軍を名誉除隊した後、恩義あるマフィアのボス・スタンに忠誠を尽くし、近頃物忘れの激しくなったスタンの面倒を見ている。そろそろ一線を退いて大好きなイタリアで隠遁生活を送ろうと考えていた矢先、敵対組織で躍進中のチンピラ・ベガーの襲撃に遭い、スタンを含む仲間を全員殺されてしまう。たったひとりの生存者となったチャーリーは、最近自らの手で殺した標的ロロが何やらベガーの弱みを握っていたことを知り、ロロの妻マーシーのもとを訪ねる。ロロとマーシーの婚姻関係はとっくに破綻していたから、ロロが死んでマーシーはむしろ清々した様子。チャーリーはマーシーの協力を得て、ベガーが執拗に狙うものを見つけることに。この仕事を片付けたら殺し屋人生とはおさらば。最後にすべて清算しようとするのだが……。
近年のピアース・ブロスナンはといえば、あまりカッコイイ役がありませんでした。この彼はとても渋くてカッコイイ。マーシー役のモリーナ・バッカリンが綺麗で見惚れました。ピアースは今年72歳。ふた回り以上年下のモリーナと恋に落ちるとかやめてよと思っていたらそうなる(笑)。ただ、クリント・イーストウッドみたいに今にも倒れそうではないし、キスシーンすらない控えめさがよかった。スタンを演じたジェームズ・カーンの遺作となりました。合掌。
《し》
『シンパシー・フォー・ザ・デビル』(原題:Sympathy for the Devil)
2023年のアメリカ作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
妻の出産に立ち会うべく急いで車を走らせるデイビッド(ジョエル・キナマン)。病院の駐車場に到着し、妻のもとへ駆けつけようとしたその瞬間、見知らぬ男(ニコラス・ケイジ)が車に乗り込んでくる。銃を向けられて車を出すように言われ、男がいったい誰なのか、目的は何なのかもわからないまま、指示に従うしかなくなったデイビッド。事情を聞き出そうとするも男はまったく取り合わず、説得するのはもちろん無理。脱出を試みるたびに失敗し、妻子の身に危険が及びそうで困り果てたデイビッドは……。
不愉快なことこのうえない作品です。ほとんど二人劇のごとく話は進みますが、ニコラス・ケイジ演じる男が「おまえ誰やねん、はよ死んでくれ」と言いたくなる奴。エンディング間近になって、ようやく男の妻子がかつてデイビッドのせいで死んでしまったことがわかるけど、逆恨みもいいとこ。百歩譲ってその恨みが理解しうるものだとしても、だったらデイビッドだけ殺せばいいのに、むやみやたらと車を走らせ、行く先々で関係のない人を殺す。車を停めた警官を射殺したかと思えば、立ち寄ったダイナーの客や従業員も躊躇なく撃ち殺し、イカれた奴としか思えません。やっぱり苦手、ニコラス・ケイジの顔。
《す》
『スタントマン 武替道』(原題:武替道)
2024年の香港作品。TSUTAYA DISCASにてDVDレンタル。
香港映画の黄金期にアクション監督として活躍したサム(トン・ワイ)は、映画の出来を最優先するあまり撮影現場で重傷者を出したことがある。そのせいで「命を軽視する監督」と揶揄されてしばらく仕事から遠ざかっていたが、旧知のベテラン監督に請われ、アクション監督として復帰する。共に組むことになったのは、安全を最優先にしつつ誰もが認める中堅アクション監督ワイ(フィリップ・ン)が率いるチーム。ワイのクルーは無茶ばかり言うサムに従おうとしない。サムは助監督として若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)を抜擢し、ワイとの間の問題解決を押しつける。スタントマンでは食っていけないからやめるようにと兄から言われていたロンは、自分の夢を叶えようと奮起するのだが……。
サムがあまりに勝手なので、終盤までイライラしました。口を開けば「昔はこうだった」。金とは関係なく体を張ったとか、納得行くまで撮影したとか、許可を取らなくても路上ロケを敢行したとか。そりゃ誰も聴きません。そのうえ、若い頃に仕事第一だったせいで冷たい娘チェリー(セシリア・チョイ)になんとか機嫌を直してもらおうとあれこれするのも鬱陶しい。陶芸の工房を持つ娘に素人が手作りした陶器をプレゼントして喜ぶと思いますか。そうすれば娘が喜ぶとアドバイスするロンもロンだ。何はともあれ、本作を観たかったのはテレンス・ラウが出ていたからなので、彼を見られただけでじゅうぶん。そして、イライラすると言いつつも、サムたちベテラン3人が並んで映画を観ているシーンにはグッと来たし、ロンに説教ばかりしていた兄がダンボールを用意してくれるところも泣きました。結局泣いとるんかい!
《せ》
『成功したオタク』(英題:Fanatic)
2021年の韓国作品。各国の映画祭で上映され、日本では2024年に春に公開。同年秋にU-NEXTにて先行独占配信された後、今年Amazonプライムビデオにて配信。
韓国芸術総合学校の映画科に通う女子大生オ・セヨンが監督を務める異色のセルフドキュメンタリー。彼女は中学生の頃からK-POPスターチョン・ジュニョンの大ファン。韓服を着て会いに行ったことが功を奏し、推しのジュニョンに名前を覚えてもらったばかりかテレビ共演まで果たす。それゆえファンの間では「成功したオタク」として一目置かれる存在。ところが彼女が大学2年になった2019年、ジュニョンが性加害事件で逮捕され、集団性暴行罪で有罪判決を受ける。好きで好きでたまらなかった推しが悪事を働いて消え去るということ。推し活がすべてだった彼女はこれからどうしてよいかわからず、同じ思いをしているはずの推し活仲間のもとをカメラを携えて訪ねることに。ジュニョンのファンのみならず、ジュニョン同様に何らかの罪を犯して逮捕されたスターのファンにもインタビューしてそれぞれの思いを聴きます。
「推しがある日突然犯罪者になる」というのは確かに衝撃的。しかも性加害事件というのはある意味どんな事件よりも衝撃的ではないでしょうか。単にファンに聴いて回るだけではなく、記者パク・ヒョシルにインタビューしているのも良いところ。ジュニョンはこの事件の3年前にパク記者によって盗撮行為をスクープされましたが、検察が嫌疑不十分で処分なしとした結果、パク記者は世間から激しい非難を受けるはめに。結局、そのスクープが正しかったということですよね。オ監督はパク記者に会い、謝罪をしています。パク記者はつまりは熱狂的ファンはパク・クネ元大統領の無罪を信じる支持者と同じだと表現していて、すかさずパク・クネ支持者の集会にオ監督が潜入するのも面白い。ドキュメンタリー作家としての彼女のこれからに期待します。
《そ》
『ソーシャル・クライマーズ』(原題:Sosyal Climbers)
2025年のフィリピン作品。Netflixにて配信。
不動産販売の職に就くジェサ(♀)は、ある富豪の葬式で故人の息子とおぼしき男性に声をかけるが、彼は故人のファイナンシャルアドバイザーのレイ(♂)だった。仕切り直して今度こそ故人の遺族に声をかけ、故人が不動産の購入を検討していたことを話すと、遺族たちからこんな場で不謹慎だと怒られる。助け船を出してくれたのがレイで、彼のおかげで遺族と取引が成立して万々歳。これが縁でふたりは交際を開始、同棲に至る。しかし投資詐欺にひっかかったレイは、ウマい話があると投資を持ちかけた近隣住民から金の返済を求められて大慌て。ジェサが管理する不動産をとっとと売却して手数料を得れば、それで金は返済できるはず。ふたりは売り物の豪邸を丹念に掃除して買い手が来るのを待っていたが、ふたりを新しい住人だと勘違いして隣人が挨拶にやってくる。真実を話そうとするも、この高級住宅街で開催される仮装コンテストの優勝賞金の金額を知り、身分を偽って参加するのだが……。
「ソーシャルクライマー」とは、上流階級入りを目指す人のことだそうです。どこの国の作品かもわからないまま観はじめましたが、まず知り合ってふたりが何度も会ってヤリまくってから「僕とつきあって」「はい」というやりとりに唖然。え、まだつきあってたんじゃないのか(笑)。良くも悪くもないラブコメだと思っていたら、残り30分というところでなかなかのサスペンスフルな展開に。ふたりの嘘を知ったあくどい美術商が、絵の才能を持つレイにガンガン描かせて金持ちに売りつけようとします。悪役の顔も台詞もめっちゃ嫌な感じで、しかも古くさい。ひと昔前の映画を観ているような気分になりました。
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