『風のマジム』
監督:芳賀薫
出演:伊藤沙莉,染谷将太,尚玄,シシド・カフカ,橋本一郎,小野寺ずる,なかち,下地萌音,川田広樹,眞島秀和,肥後克広,滝藤賢一,富田靖子,高畑淳子他
MOVIXあまがさきにて、前述の『バード ここから羽ばたく』の次に。
実話に基づく原田マハの同名ベストセラー小説を映画化したのは、本作が長編デビューとなる芳賀薫監督。これまではCMを中心に活動されてきたそうです。主人公のモデルとなっているのは、沖縄・南大東島のサトウキビで純沖縄産ラム“CORCOR(コルコル)”を製造販売する株式会社グレイス・ラムの金城祐子社長。
沖縄の通信会社琉球アイコムに契約社員として勤務する伊波まじむ(伊藤沙莉)。同じ会社で働いているというのに、正社員と契約社員は明確に線引きがされていて、理不尽な扱いを受けることもしょっちゅう。すべてに前向きなまじむは適当に受け流しつつも、将来への漠然とした不安を募らせている。
そんなまじむのささやかな楽しみは、行きつけのバーでマスター・後藤田吾朗(染谷将太)から美味しい酒を飲ませてもらうこと。ある日、ラム酒がサトウキビから造られると知り、純沖縄産のラム酒を造ればいいのではと思いはじめる。ちょうど社内では第1回ベンチャーコンクールの開催が告知され、何かと差別される契約社員でもエントリーOKらしい。さっそく企画書を作成したところ、契約社員では唯一の応募者だったうえに、一次審査を通過して浮かれる。
帰宅して報告すると、祖母のカマル(高畑淳子)と母のサヨ子(富田靖子)は共に喜んでくれたものの、長年豆腐店を営むカマルから、他人様の口に入るものを作るのはそう簡単なことではないと釘を刺される。その通り、新規事業開発部に配属後は、上司の儀間鋭一(尚玄)に窘められ、糸数啓子(シシド・カフカ)からは冷酷とも言えるほどの言葉を浴びせられる。それでも同僚の小野寺ずる(知念冨美枝)や南大東島在住の後輩夫婦・仲里一平(なかち)と志保(下地萌音)の協力を得て、なんとか実現しようとするのだが……。
酒を造りたいとただ言ったって、できるわけがありません。まじむは単に酒好きなだけで、酒造りの知識はありませんから。けれど、あきめたらそこで終わりだと思う彼女は決してあきらめません。工場を建て、真摯に酒造りに取り組んでくれる醸造家に直談判する。一方の啓子は「これはビジネスだから」と、儲けを見込めそうにないまじむの話をスッパリ切り、東京の人気醸造家というのかコンサルタント・朱鷺岡明彦(眞島秀和)に頼めばその名前だけで売れると考えます。
どっちみち太刀打ちできないならば最後は自分らしくと考えるまじむのプレゼンは天晴れ。そりゃ満場一致でしょう。生産者の顔が見えるってこういうこと。彼女の想いに応えた醸造家・瀬那覇仁裕(滝藤賢一)が素晴らしい。
伊藤沙莉の笑顔って、見ているこっちまで笑顔にする笑顔だと思う。酒好きに乾杯。
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