『逆火』
監督:内田英治
出演:北村有起哉,円井わん,岩崎う大,大山真絵子,中心愛,片岡礼子,岡谷瞳,辻凪子,小松遼太,金野美穂,島田桃依他
キノシネマ心斎橋にて3本ハシゴの3本目。
監督は『ミッドナイトスワン』(2020)や『異動辞令は音楽隊!』(2022)の内田英治。これが最新作かと思ったら、『マッチング』(2024)や『誰よりもつよく抱きしめて』(2024)よりも製作年は前なんですね。正直言って、私はこの監督の作品があまり好きではありません。でも、観なきゃ文句も言えないし、北村有起哉主演というところに惹かれて。
映画監督になりたくて夢を追い続ける野島浩介(北村有起哉)。現在助監督を務めているのは、話題性に富み、ヒット間違いなしの作品。貧困家庭でヤングケアラーとして父親を介護した末に実業家として成功した小原有紗(円井わん)の自伝の映画化だ。撮影現場にいる誰しもがこの作品に賭けている。
しかし、取材の鬼と言われている浩介は、有紗を知る人たちに話を聴くうち、この美談がまったくのでたらめであることを知る。有紗の父親はとんでもないゲス野郎で、有紗が父親のことを大好きだったというのはまったくの嘘。また、父親が亡くなった後に有紗が受け取った保険金2千万円も、父親が有紗のために掛けていたものではなく、母親が「あの人、早く死にそうだ」と掛けていたもの。パパ活していたという事実も掴んだ浩介は、本当は有紗が父親を殺したのではないかとすら思いはじめ……。
美談がまったくの嘘だとわかり、浩介は監督の大沢祥平(岩崎う大)やプロデューサーの橘郁美(片岡礼子)にこのまま話を進めるのはまずいんじゃないかと進言します。けれど、撮影スタートの日が迫り、すでにいろんなお金が発生していることを思えば、じゃあやめようとはなりません。たとえ嘘だったとしても、この作品がいま思い悩んでいるヤングケアラーたちを救うことになるかもしれないと監督は言う。それを聞いた浩介は、貧困家庭の子どもたちがこんな映画を観る金を持っているわけがないと思う。仮にお金を持っていたとしても、子どもたちが観たいのはもっと別の映画だろうと。
仕事で思い悩んでいる浩介ですが、実は家庭のほうが大問題。父親がこんなふうに映画監督になりたいがために、一家はじゅうぶんな収入がありません。そのせいで一人娘の光(中心愛)はすっかりグレ、そんな娘にどう接してよいかわからない母親の幸(大山真絵子)に浩介は光を見張れと言うばかり。
前述の『三日葬/サミルチャン』で嫌なオチを想像していたらそうでもなく、こっちのほうが愕然とします。苦手な内田監督ですが、本作にはちょっと驚かされました。後味はよくありません。とてもつらい話だったけど、引きずり込まれる。
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