『秒速5センチメートル』
監督:奥山由之
出演:松村北斗,高畑充希,森七菜,青木柚,木竜麻生,上田悠斗,白山乃愛,岡部たかし,中田青渚,田村健太郎,戸塚純貴,蓮見翔,又吉直樹,堀内敬子,佐藤緋美,白本彩奈,宮崎あおい,吉岡秀隆他
新海誠監督といえば『君の名は。』(2016)、『天気の子』(2019)、『すずめの戸締まり』(2022)ですが、私は圧倒的に『秒速5センチメートル』(2007)が好きです。もっとも、あらためて劇場で観たときには明里ってこんなにあざとかったっけと思わなくもなかったけれど(笑)、最初に観たときの鮮烈な記憶のほうで上書きされて、良い印象のほうが残っています。しかも今年どハマりした『ファーストキス 1ST KISS』の松村北斗主演となれば期待しかありません。監督は自主映画『アット・ザ・ベンチ』がよかった奥山由之。三連休の中日、TOHOシネマズ梅田にて朝イチの回を鑑賞しました。
1991年、東京の小学校。転勤族の親を持つ遠野貴樹(上田悠斗)は、転校生の篠原明里(白山乃愛)が不安に駆られているのを感じ取る。貴樹自身1年前に転校してきたばかりだったから、明里に転校生としてのコツを伝授するうち親しくなる。放課後の図書室で星に関する本を一緒に読んだり、夜の空を見に行ったり。お互いに大切な存在となっているのに、それを口に出すことはできない。それでも小学校を卒業すれば中学校でもこの関係が続くと思っていたのに、明里が栃木に引っ越しすることに。同じ中学校に通うことは叶わなくなったが、天文手帳を交換日記として使用し、郵送でやりとりする日々が続く。
2008年、貴樹(松村北斗)は優秀なプログラマーでありながら孤高の人。誰とも群れず、雑談に加わることは一切なく、コミュニケーションを取ることを拒否している。同僚の水野理紗(木竜麻生)と交際中だが、理紗は貴樹が自分とつきあっているのはただ楽だからだと思っている。きっと貴樹は楽しいとは思っていないだろうと。
一方、明里(高畑充希)は書店員。天文にやたら詳しく、それを生かしたポップ作りが好評。店長の柴田(又吉直樹)からの信頼厚く、田村(堀内敬子)や大橋(佐藤緋美)ら同僚たちとも上手くやっている。仕事で知り合った輿水美鳥(宮崎あおい)とウマが合い、いろいろと話をする仲。ある日、美鳥が鹿児島で高校教師を務めていた頃に教え子だった男子とばったり会った話を聞く。美鳥は彼と飲みに行く席に明里を誘うのだが……。
以下、ネタバレ全開で書きます。
こんなにもお互い想い合っていたふたりがいつから連絡を取らなくなったのかわかりません。そこに特に理由はないような気がします。歳を重ねても会うことはなく、なんとなく疎遠になりつつも心の中には居る。親しい友だちはいなかったのかと同僚から問われた明里が「ひとりだけ居ました、いや、居ます」と答えます。そのときの景色や音、匂いのすべては今も心の中にあるから、過去のことではなくて日常。この表現がすごくいいなぁと思いました。泣きそうになるくらい。
美鳥の教え子というのが貴樹で、そんなことは明里はもちろん誰も知らない。昔の教え子男子との飲み会に明里もどうかと誘うのは無理があるのはさておき、ここで会ってビックリという展開かと思ったら、当日に残業になった明里は欠席。安直な展開じゃなくてよかった(笑)。
引っかかるのは貴樹の高校時代のシーン。鹿児島の高校で彼に片想いする女子を森七菜が演じています。これはこれで忘れがたい話ではあるのですが、高校生の貴樹を演じるのが青木柚。どうやら私はこの青木紬と萩原利久がタイプではないようで、どんな作品でもイケメン扱いされていることがどうも引っかかる。松村北斗の若かりし頃が彼というのはありですか。この2人は主役よりも脇役で出ているときのほうが好きだなぁ。
さて、心を閉ざしたままの貴樹の唯一の理解者が元上司の窪田(岡部たかし)。窪田から紹介された仕事がプラネタリウムのプログラミングです。冒頭、館長(吉岡秀隆)から「宇宙に残したい言葉」を聞かれて答えられなかった貴樹の最後の答えもいい。原作にない設定も織り交ぜながら、心に染み入る話になっています。何よりも松村北斗の表情にやられます。昔は10本観たら6〜7本は泣いていましたが、最近泣いていなかったような。これはちょっと泣きました。私以外の原作ファンの方、どうでしたか。
あ、ふたりが結ばれるハッピーエンドではありませんので、それを期待している人には不向きかもしれません。果てしなく切ない。
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