『盲山』(原題:盲山)
監督:リー・ヤン
出演:ホアン・ルー,ヤン・ユアン,チャン・ユーリン,ホー・ユンラー,ジア・インガオ,チャン・ヨウピン他
2007年の中国作品なのだそうです。当時、中国政府による厳しい検閲を受けて約20カ所のシーンのカットを余儀なくされたのに、中国国内では結局上映を禁じられる。しかし第60回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品されるや評判となり、社会的反響を呼んで波紋を広げたとのこと。
撮影を担当したのはアン・リー監督の『ウェディング・バンケット』(1993)や『恋人たちの食卓』(1994)、『ベッカムに恋して』(2002)などを手がけたジョン・リンで、35mmフィルムを使用しています。村人役には演技経験のない地元の農民を起用したおかげで限りなくドキュメンタリー風。主人公を体当たりで演じるのは北京電影学院の学生。中国では封印されてきた禁断の傑作の呼び声高い本作がこのたびようやく日本で公開。こんな作品を上映してくれるのは第七藝術劇場に決まっている。
大学を卒業したものの就職にあぶれたパイ・シューメイは、学費を工面してくれた親に報いるために割の良いバイトを探す。友達になった女性が紹介してくれたのは、漢方となる葉を摘んで売る仕事。少なくとも500元(=日本円で約1万円)、運が良ければ900元ほど稼げると聞いて大喜び。その女性と製薬会社の社員を名乗る男性に連れられて山奥の村へと向かう。ようやく目的地に到着して、仕事の段取りをしてくるという2人を待つ間に眠りこけ、目が覚めたときには農家の一室に横たえられていた。身に着けていたはずの財布や身分証はどこにもなく、あの2人の姿も見えない。
パニック状態に陥るシューメイに村人たちが言うには、「おまえは7000元で花嫁として売られてきた」。人身売買は違法だが、この村ではそれが当たり前。拉致されて連れてこられたが最後、決して村からは出られない。花婿となるホアン・デグイは、おとなしく従えば大事にするとシューメイに言うが、およそそんなことは受け入れられない。激しく抵抗するシューメイは部屋に監禁されたうえレイプされる。
あきらめないシューメイは、何度も逃走しては失敗して連れ戻される。村人の中で唯一助けてくれようとしたデグイのいとこと不倫関係を結んで脱出の機会を図るも、不倫がバレて彼は村から追放されてしまう。シューメイの行動は常に監視され、村長も警察も郵便配達員までグルだからどうにもできないまま、シューメイは妊娠して男児を出産するのだが……。
村にはほかにも拉致してこられた女性がたくさんいます。逃げようとさえしなければ暴力をふるわれることもないから、シューメイ以外はみんなあきらめてそれなりに前向きに暮らしている。けれど、この村には男児しかいません。女児を産めば食い扶持が増えるだけだから即刻殺してしまうんですね。女に教育は不要で、女子を増やすぐらいなら豚を飼うほうがいいと男たちは思っています。だったらどうして大卒の女性を拉致してくるのでしょう。そこが不思議。
オチは予想できます。だって彼女がこの状況から解放される道はこれしかないから。唐突に終わるシーンに私たちは呆然としつつも納得させられる。そりゃ無理でしょう、こんな作品を中国で上映するのは。でも本作の上映を禁じるのは何のためなのか。人身売買がまかり通っていることを隠したいのか、食い扶持を減らすためなら子どもを殺すのも当たり前だと思っていることを恥じているのか、国民が賢くなっては困るのか。
シューメイを演じたホアン・ルーは今どうしていますか。中国作品で虐待されて胸を晒されているシーンって、なかなか見られないと思います。観る機会がなかったけれど、彼女が出演している『ブラインド・マッサージ』(2014)や『郊外の鳥たち』(2018)を観てみたいですね。
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