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『揺さぶられる正義』

『揺さぶられる正義』
監督:上田大輔

第七藝術劇場にて、前述の『盲山』の次に。

上田大輔監督は大学卒業後まぁまぁ苦労して30歳で司法試験に合格、企業内弁護士として関西テレビに入社。その後、自ら記者の道を歩むことを選ばれたそうです。報道のあり方に疑問を感じて取材を始めたのが、多くの冤罪を生んだこの事件。

“揺さぶられっ子症候群”が話題になったのは2010年代。私も知っています。赤ちゃんを揺さぶることで死に至らしめる虐待だとそのときは思っていましたし、本作を観るまでもそう思っていました。疑われた親が逮捕・起訴され、実刑を受けたケースも。しかし現時点でそのうちの13件もが裁判で無罪になったことは知りませんでした。

乳幼児に3つの徴候(硬膜下血腫、網膜出血、脳浮腫)が揃っていた場合、強い回転性の外力が頭部に加えられたことが原因だと言われています。外から見ても痕跡がないのにこの徴候が揃うのは、暴力的な揺さぶり、すなわち虐待があったと認識されて、病院から通報されることが多いとのこと。

本作で取り上げられている複数の人々もそう。虐待なんて絶対していないと主張しても、自身の子どもが運び込まれた病院で虐待の疑いありと判断されればたちまち捕まる。本作に仮名で顔を伏せて出演した方もいらっしゃいますが、我が子を虐待した罪で収監された写真家の赤坂さん、そして幼い娘を虐待死させた罪に問われている今西さんは実名で顔も見せて出演されています。

どの人にも共通するのは、悪意を持って報道されたと言わざるを得ないこと。特に今西さんは逮捕当時20代前半で見た目もチャラい。しかも亡くなったのは2歳半の義理の娘ということで、「殺すわけないやろ」とマスコミに凄むかのような姿を見れば、「こいつは絶対クロ」という印象を抱きます。しかし彼に初めて接見した日に「彼はやっていない」と確信を持った弁護士の秋田さん。今西さんの主任弁護士を務める川﨑さんと共に、無実であることを証明してゆきます。

実際に子どもを虐待している人はいる。もしかしたら私たちだって騙されているかもしれない。けれど本作に登場した方々については明らかな冤罪でしょう。赤坂さんを見れば、自分を殺そうとした父親にこんなふうに満面の笑顔で抱きつく息子がいますかと言いたいし、今西さんを見れば、娘を死ぬほど虐待した男性に飼い犬がこんなにも懐きますかと思う。事件の始まりは派手に報道されるのに、無罪だったという報道は控えめだから、彼らの裁判の結果を私は知りませんでした。

一度クロだとされたらそれをシロに変えることは無理だと今西さんは言います。そう、無罪を勝ち取っても、一度有罪判決を受けた人は「本当はやったんじゃないの」と思われる。加害者とされた彼や彼女たちが一刻も早く心身共に解放される日が来ますように。

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