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『愛されなくても別に』

『愛されなくても別に』
監督:井樫彩
出演:南沙良,馬場ふみか,本田望結,基俊介,伊島空,池津祥子,河井青葉他

イオンシネマ茨木にて。

原作は“響け!ユーフォニアム”シリーズの武田綾乃による同名小説で、吉川英治文学新人賞の受賞作。井樫彩監督の作品を観るのは私は初めて。公開から1週間以上経っていて、もうじき上映が終了してしまいそうなとき。スルーしかけていたのですが、観てよかった。

大学生の宮田陽彩(ひいろ)(南沙良)は幼い頃に両親が離婚して以来、母親(河井青葉)と2人暮らし。働きもせず家事もせず家に男を連れ込む母親に代わって家計を担わなければならないから、宮田は授業の時間以外をほぼすべてコンビニでのアルバイトに費やしている。

体調不良で授業を欠席した日のレジュメを後日もらおうと先生に直談判するが、いかなる理由でも欠席者のフォローはしないと冷たく言い放たれてガックリ。ノートを見せてほしいと頼める友人などいない宮田は、教室でよく見かける木村水宝石(あくあ)(本田望結)に声をかける。あなたにノートを見せて私に何の得があるのかと言う木村と話すのが面倒になって立ち去ろうとすると、宮田と同じコンビニで働く江永雅(みやび)(馬場ふみか)とはつきあわないほうがいいと木村が忠告してくる。江永の父親は殺人犯だからだと。

江永とは大学も同じだが、見た目が派手で愛想皆無の彼女とはバイト先で会っても必要最低限のことしか話したことがない。木村の話を確かめたくなった宮田が江永に単刀直入に聞くと、江永の答えは想像の遥か上を行くもので……。

宮田と江永と木村、三者三様に毒親のもとで育っています。木村だけは毒親というのは当てはまらないかも。地方から東京へ出てきた娘のことが心配で2時間毎に電話をかけてくるという異常に過保護な親だけど仕送りもたんまり。その金を木村は新興宗教につぎ込んでいます。一方の宮田は何が何でも大学は出ないと良いところに就職できないと思って頑張っているけれど、実は母親は娘の奨学金も元夫から受け取る養育費も全部遊興費として使っている。娘に向かって絶えず発する「愛している」という言葉の薄っぺらいこと。また、江永は轢き逃げを犯して逃走中の父親から性的虐待を受け、味方だと思っていた母親からも実は疎まれていたことに気づいて家を出た身。自分こそ最も不幸だと思っていた宮田は江永の話を聴いて愕然とします。

宮田が実家暮らしだと聞いた江永が「いいね、殺したいときにいつでも殺せる」という台詞が衝撃的すぎて笑ってしまったほど。本当に母親を殺したくなった宮田が家を飛び出し、頼る相手は江永しかいません。こうして始まるふたりの生活。

江永が父親の殺した相手の息子(伊島空)につけ狙われたり、木村が通う新興宗教の教祖に会いに行くと木村の母親が乗り込んできたりと不穏なシーンがいっぱいですが、不思議と荒んだ気持ちにはなりません。愛されたいと思っているわけじゃない、愛されなくても別にいいし、別にいいんだよと思わせてくれる人がいてほしい。

南沙良と馬場ふみかの演技が最高です。このふたりをいつまでも見守っていたくなる。

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