『入国審査』(原題:Upon Entry)
監督:アレハンドロ・ロハス,フアン・セバスティアン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン,ブルーナ・クシ,ローラ・ゴメス,ベン・テンプル,デヴィッド・コムリー他
病み上がりでもおとなしくしていられず、朝から京都へ向かってまずは墓参り。蕎麦菓子屋で女将さんとひとしきりしゃべった後、そのお菓子を土産に京都市美術館で開催中の書道展へ。母の旧知の人たちにご挨拶してからなんばへ。“還暦特別公演 辻本新喜劇 in なんばグランド花月7DAYS”の千秋楽に行く前に、なんばパークスシネマにてこのスペイン作品を。
これが長編デビュー作となるアレハンドロ・ロハス監督はベネズエラのカラカス出身。彼の実体験を基に、同じカラカス出身でやはり本作で長編デビューを果たすことになったフアン・セバスティアン・バスケス監督とともに撮り上げたのだそうです。上映時間は77分で、中編程度の尺。ほとんどが会話のみによる構成にもかかわらず、緊迫感ありありの心理サスペンス。
スペインのバルセロナに暮らす事実婚の夫婦ディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クシ)は、移民ビザを取得してアメリカに移住することに。何の問題もないと自分たちに言い聞かせつつも、ニューヨークの空港で入国審査を前に緊張するふたり。前に並ぶ人を見るかぎり最も優しそうな職員に当たってホッとしながらパスポートを提示したのに、二次審査の必要があるからと別室に連れて行かれる。
部屋に現れた女性審査官バスケス(ローラ・ゴメス)は、ベネズエラ出身のディエゴを疑い、移民ビザ目的でエレナとつきあっているのではないかと言う。続いて現れた男性審査官バレット(ベン・テンプル)からはディエゴがエレナに隠していた事実を突きつけられ、エレナも疑念を抱きはじめて……。
面白いですよねぇ。ふたりが入国審査を受けるまでは、とても仲睦まじいカップルに見えていました。ディエゴの見た目は誠実そのものだし、エレナも明るく質素で良いイメージしかない。お互いを信頼し、それぞれの親のことも大事にしている。こんなふたりがなぜこんな扱われ方をしなきゃならんのだと憤慨してしまうほど。バスケスの尋問の仕方はふたりを挑発しているとしか思えません。
ところがバスケスとバレットからディエゴの過去が明らかにされると、あらら、ちょっと待って!となる。コンテンポラリーダンサーのエレナはスペイン出身で、このたび移民ビザ取得の抽選に初エントリーして見事当選したらしい。一方のディエゴは都市計画の専門家だけど今は無職。エレナと出会う前にも何度か移民ビザの取得を申請したことがあったのに、いつも落選。しかも彼にはネットで出会った女性との婚約歴があり、交際期間はエレナとかぶっているじゃあないかと。そりゃこんなことを聞かされたら、エレナも疑心暗鬼になるというもの。
このときにポロッと出るのがディエゴの本音でしょう。「帰る場所がある人にはわからない」。決してエレナを利用しているわけではない。生涯共に過ごしたいと思っているのは偽りのないこと。けれど、自分の祖国は政治的に不安定で、絶えず問題が勃発している。物事を片付けるには金が必要で、金さえあればなんとかなる賄賂の国。
とても結末に期待できる展開ではなかったから覚悟していましたが、あ、そうですか(笑)。つまり、これぐらい酷い仕打ちを受けてもいなすくらいの肝っ玉がなければ、アメリカの入国審査には通らないってことなのでしょうかね。これに耐えられる人だけいらっしゃいって。
ようこそ、アメリカ合衆国へ。トランプ政権下ではどうなるのか。低予算作品のお手本。面白かった。
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