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『ラスト・ブレス』

『ラスト・ブレス』(原題:Last Breath)
監督:アレックス・パーキンソン
出演:ウディ・ハレルソン,シム・リウ,フィン・コール,クリフ・カーティス,マーク・ボナー,マイアンナ・バーリング,ボビー・レインスベリー,ジョセフ・アルティン他

それほどの海好きではないにもかかわらず、海洋ものや深海ものにはついつい惹かれて観に行きます。本作も同週封切り作品のなかでは私の興味がもっとも強く、何を置いてもまっさきにこれを観ようと思いました。なのに近所では上映劇場がなく、キノシネマ心斎橋へ。

実話に基づくアメリカ/イギリス作品。2012年の潜水事故を扱ったドキュメンタリー作品『最後の一息』(2019)のリチャード・ダ・コスタとアレックス・パーキンソン両監督のうち、後者が監督となって再び映画化。今回は役者を起用した作品ではありますが、ドキュメンタリー映像が多く含まれているせいかめちゃくちゃリアル。飽和潜水士という職業があることを初めて知りました。

世界中の深海に横たわるバイプラインの総延長は約32,000キロ。その補修作業に携わるのが、もっとも危険な職業のひとつといわれる飽和潜水士。クリスはこの職に就いて5年でまだ若手の部類。婚約者のモラグは仕事に向かうクリスをいつも心配するが、そのたびに大丈夫だと言い聞かせている。

この日からは北海でパイプラインの補修をおこなう予定。スコットランドのアバディーン港を出航した潜水支援船タロス号に乗り込む飽和潜水士は3チーム。1チームは3人で構成され、クリスは彼を鍛えてくれた先輩のダンカン、無愛想だが確かな腕を持つデイヴとチームを組むことに。まず3人はタロス号の底から出て潜水べル(=作業員を海中に吊り下ろすための鐘型の構造物)に乗り込む。そしてダンカンが潜水ベルに乗ったままクリスとデイヴを深海に下ろし、命綱を持って2人の帰りを待つ寸法。

ところが、2人が水深91メートルの海底で作業している途中、タロス号のコンピュータシステムに不具合が起こる。自動航行中だったタロス号は制御不能に陥り、折しも荒れる海のせいで漂流しはじめる。タロス号に引っ張られることとなったクリスの命綱が切れて、ひとり深海に投げ出されてしまう。緊急用の酸素残量は10分しか持たない計算だから、早急に助けなければクリスは死んでしまうだろう。システムが復旧しなければ海は真っ暗闇で通信もできない。海中の潜水ベルにとどまって復旧を待つダンカンとデイヴ。海上ではタロス号の乗組員たちがあらゆる手を尽くして救助を試みるが……。

いや~、面白かった。こんな事故が本当に起きたことを思うと面白いなんて言っちゃいけないんですが、クリスがいったいどうなるのか緊迫感がみなぎって、その場にいるような気分にさせられます。もちろん彼が死ななかったからこの事故が映画になったはずで、助かるに決まっていると思いつつドキドキ。

潜るまでは冷たい人に見えていたデイヴは、命綱が切れる直前のクリスに「必ず助けに戻る。ひとつだけ頼みがある。マニホールドまで上がってきてくれ。でないと君を見つけられない」と言います。マニホールドとは船の貨物等の積み下ろしに必要な配管やホースを接続するステーションのことで、私の印象としては海底のジャングルジム。命綱が切れて酸素も残り少ないクリスが海底でクライミングしながらそんなジャングルジムの上までたどり着けるのかと思うけれど、クリスはデイヴの言葉を思い出し、必死ではマニホールドを探して登ります。

タロス号との通信が途切れてどうにも身動きが取れなくなってからも、ダンカンとデイヴはなんとかできないものかと考える。クリスはすでに死んでいる可能性が高いけど、遺体は必ず見つけてモラグのもとへ連れ帰りたい。彼女に向かって「あなたの婚約者は死んだよ。でも遺体はないんだ。遺品はロッカーに残っていた靴箱だけ」なんて絶対に言えないと彼らは思っているのです。あきらめないのはタロス号の船長をはじめとする乗組員たちも一緒。クリスが無酸素状態に陥ってから数十分が経過しても生きているかもしれないと考えるし、そうでなくても遺体は絶対に見つけたい。

嵐の中で漂流するタロス号を食い止め、自動航行から手動に切り替え、潜水地点に戻ってクリスを探す。なんとかクリスが横たわっているのを見つけても、意識のない彼を潜水ベルまで連れ帰るのは困難を極めること。それでも誰もあきらめずにいた結果、40分も無酸素でいたクリスが生還するのでした。

ダンカン役のウディ・ハレルソン、やっぱり好き。デイヴ役のシム・リウ、クリス役のフィン・コール、みんなよかった。こんな体験をしてもまだ潜水を続ける彼らは深海に囚われているとしか思えませんが(笑)、凄いことですね。海上から飽和潜水士たちを守る司令塔クレイグ役のマーク・ボナー、船長役のクリフ・カーティス、船長の右腕ハンナ役のマイアンナ・バーリングやシステム復旧時に活躍するマイク役のジョセフ・アルティンなどなど、みんな温かくて誠実、優秀。素晴らしいチームです。

後日談として、クリスがこのような状況で心身に異常を来すことなく生きていられた理由は解明されていないとの話。『ザ・ディープ』(2012)を思い出します。奇跡を起こすにはあきらめない気持ちが必要。

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