『ブレイカウェイ』(原題:Blinkende Lygter)
監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:ソーレン・ピルマーク,ウルリク・トムセン,マッツ・ミケルセン,ニコライ・リー・コス,オーレ・テストラップ,フリッツ・ヘルムート,ソフィエ・グロベル,イーベン・ヤイレ他
テアトル梅田にて開催中の“マッツ・ミケルセン生誕60周年祭”。全7作品を網羅したかったけど、そんなに私に都合の良い時間に上映してくれるはずもなく、とりあえず観たのは『アダムズ・アップル』(2005)でした。そうしたら凄く面白くて、残りもなんとか観たくなる。仕事帰りに梅田まで行くのはなかなかつらいんですが、時間が合うなら行っておこうと車を走らせました。11月半ばから始まっているクリスマスマーケットのせいで、平日の晩でも梅田スカイビルは大賑わい。
本作は2000年の作品で、日本では劇場初公開。本国デンマークでは歴史的大ヒットを飛ばし、デンマーク映画史上最高傑作と言われているそうな。『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(2020)のアナス・トマス・イェンセン監督は脚本も必ずご自分で書く人。大好きです。7作品のうちでも最も人気が高いのではないでしょうか。満席で嬉しくなる。原題の“Blinkende Lygter”は英語で“Flickering Lights”。直訳すると「点滅するライト」。観れば意味がわかります。
コペンハーゲン出身の4人のチンピラたち。トーキッド(ソーレン・ピルマーク)をリーダーに、ヤク中のピーター(ウルリク・トムセン)、拳銃マニアですぐにキレるアーニー(マッツ・ミケルセン)、いちばん年下のステファン(ニコライ・リー・コス)はいつ何時も一緒。トーキッドは足を洗いたいと思っているが、ギャングのボス・エスキモーから借りている金を返さなければ抜けることは許されない。今度こそ金が作れると思った取引にも失敗し、エスキモーから指示された盗みを働かざるを得なくなる。
指示通りにある邸に侵入した4人は、金庫から400万デンマーククローネ(日本円で1億円近く)が入ったアタッシェケースを盗み出すが、いざ退散というときにやってきた警備員と撃ち合いに。急いで車に飛び乗って逃走する。途中、トーキッドがこんな暮らしはもうやめたいと言い出し、このまま金を持ってバルセロナを目指して逃げることにあとの3人も賛同する。ところがしばらく走ったところで車が火を噴き、警備員が発砲した銃弾が腹をかすめたピーターはヤク切れもあって具合が悪そう。身を隠せる場所を求めて森の中を歩いていると、数十年は放置されているとおぼしき廃屋が見つかる。
誰も来ないだろうと思っていたのに、ひょっこりやってきた近所の猟師アルフレッドから「レストランを開くのか」と聞かれ、ついつい頷いてしまうトーキッド。アルフレッドから紹介された医者カールはあきらかに4人を怪しんでいるが、金を握らせてピーターを診てもらう。すると、治療はカール自身の口に含んだ酒を傷口に吹きかけたのみで、2週間は安静だと言い渡される。致し方なく傷が癒えるまでの間はレストランを開店するふりをしてここにとどまることにするが……。
冒頭、「味なんてどうでもいいと思えるレストランがある」と女性の声が流れ、実に居心地のよさそうなレストランに人々が集う光景が映し出されます。ドンパチの後にこんなオチが待っていることは予想できず、これは夢物語なのかなと思っていました。そうか、こういうことだったのですね。
4人とも少しずつイカれていて、普通とは言えません。知的でもないし、いたって粗野な印象。性格的にも合うとは思えないのに、なぜ始終一緒にいるのか。4人の生い立ちを私たちが知らされた後に4人が出会うシーンでは切なくなって、彼らを抱きしめたくなります。エスキモーに追われて最後はみんな死ぬんだろうと思っていたら、そう来るか。エスキモーの「どうして俺だけ仲間はずれなんだ」という叫びに、入りたかったんかい!とツッコミ入れたくなりました。彼も入れてあげりゃあよかったのにとそれもちょっと切ない。
それでも、料理が美味しくないレストランには行きたくないでしょと思うけど(笑)、こんな場所があってもいいかもしれない。
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