『テレビの中に入りたい』(原題:I Saw the TV Glow)
監督:ジェーン・シェーンブルン
出演:ジャスティス・スミス,ブリジェット・ランディ=ペイン,ヘレナ・ハワード,リンジー・ジョーダン他
2022年6月に亡くなった弟が使っていた洗濯機をわが家に移設して3年、ついに壊れました。部品を換えればまだ使えるかもしれないとは思ったけれど、2013年の製品。最近の洗濯機の寿命は7年程度らしくて、んじゃもう十分働いたよねと買い換えることに。ヨドバシカメラに午前中着を指定して休みを取った日、11:40にヨドバシから電話がかかってきて「12:00-15:00に伺います」と言う。はぁ?午前中を指定した意味ないやんと文句を言いたくなるところ、作業に来る人の機嫌を損ねても困るのでグッと飲み込んで待つ。その間に単行本だから持ち歩くのが面倒だった『四ツ谷一族の家系図』を読めたからまぁいいや。
で、結局ヨドバシが来たのは13:10で、設置に30分弱要する。洗濯機が予定通り届いたら観ようと思っていた本作はイオンシネマ茨木で14:05からの上映。この日の晩は甲子園で阪神タイガースの今シーズン最終戦を観戦予定で、老健にも寄って父に面会するつもりだったのに、映画の前には老健に寄れんがな。とりあえず映画には間に合いそうだとすぐに家を出て茨木へ。
A24配給の本作は、エマ・ストーンがジェーン・シェーンブルン監督の脚本に惚れ込んで製作に名乗りを上げたことで話題となっている作品です。アメリカでは昨年わずか4館で限定公開だったところ、評判を呼びに呼んで2週間後には469館の拡⼤公開に至ったとのこと。
1990年代のアメリカ郊外。中学1年生の男子オーウェンは深夜番組“ピンク・オペーク”に好奇心を募らせている。イザベラとタラというふたりの少女が怪物たちと戦う話で、怪物を遣わすのは“ミスターメランコリー”。予告編を目にするたびに観たくてたまらなくなっているのに、オーウェンは親から22:00就寝を言い渡されているから、視聴することは許されない。
ある日、母親に連れられて訪れた選挙会場の体育館で、同番組のオフィシャルブックに読みふける2学年上の少⼥マディと出会う。観たくても観られない事情をオーウェンがマディに打ち明けると、マディが妙案を持ちかける。オーウェンは友達の家に泊まると両親に嘘をついてマディの家へ。マディの家でこの番組を観て虜になる。頻繁に嘘をついて出てくるわけにはいかないオーウェンに、マディは録画したものを貸してくれるようになる。
この町から出て行かなければ死んでしまうと常々話していたマディが、あるとき突然いなくなる。マディの家の裏では画面に穴のあいたテレビが燃えていた。彼女の行方がわからないまま、歳を取ってゆくオーウェンだったが……。
オーウェンを演じるのは『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018)のジャスティス・スミス。マディ役には『ビルとテッドの時空旅⾏ ⾳楽で世界を救え!』(2020)のジャック・ヘヴン(男女どちらの性でもないことを自認するノンバイナリーを公言してブリジェット・ランディ=ペインから改名)。ほかにもテレビの中の登場人物として、インディロック界のカリスマであるリンジー・ジョーダンが出演しています。って、カリスマかどうか知らんけど。
若者が熱狂して大ヒットした作品なのだそうですが、私には何をどう感じ取ればいいのか正直なところわからない。ただ、つまらないわけではありません。
テレビの中の登場人物と自分たちを重ね合わせるのは現実逃避したいからだと思えるけれど、その割にオーウェンには意気地がない。一緒にここから出て行こうとマディに言われると、オーウェンは行きたくないから親に外出を禁じられたいとすら考えます。いい子で過ごしてきた彼は、マディのように行動に起こせないまま大人になり、年老いてゆきます。それでもまだその毎日から抜け出すことが恐ろしい。何もしない人生を選んできた自分を振り返ることのほうが怖いのに。
「テレビの中に入りたい」と聞いて貞子のようにテレビの中から出てくるほうを思いましたが、そうじゃなかった。これは『ビデオドローム』(1982)の青春版みたいな感じです。
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