『ひゃくえむ。』
監督:岩井澤健治
声の出演:松坂桃李,染谷将太,笠間淳,高橋李依,田中有紀,種崎敦美,悠木碧,榎木淳弥,石谷春貴,石橋陽彩,杉田智和,内田雄馬,内山昂輝,津田健次郎他
封切り日にイオンシネマ茨木にて。
『チ。―地球の運動について―』で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した魚豊(うおと)のデビュー作が原作なのだそうです。『チ。』は2020年から2022年『ビッグコミックスピリッツ』で連載されていた作品で、この『ひゃくえむ。』はそれより前の2018年から2019年にかけてウェブコミック配信サイト『マガジンポケット』で連載。『ひゃくえむ。』連載終了時には魚豊は引く手数多となっていて、のちの『チ。』でその存在が確固たるものに。そして今、デビュー作の『ひゃくえむ。』のアニメ映画化に至る。監督は『音楽』(2019)の岩井澤健治。彼は『無名の人生』のプロデューサーでもあります。
小学生のトガシは生まれたときから足が速かったと言っても過言ではない。同年代では彼に勝てる者など誰もおらず、なんなら中学生と競走しても勝てるのではないかと噂されるほど。特に努力せずともぶっちぎりの速さを見せるトガシはどこへ行っても人気者。勝手に人が集まってくる。
そんなある日、必死の形相で近所を走っている男子を見かける。息をするのも苦しそうに走るその男子=小宮が翌日転校生としてトガシのクラスにやってきたからビックリ。挨拶する声も消え入りそうに小さく陰気な小宮はさっそく同級生たちの嘲笑の的となり、体育の授業でも散々な走りっぷり。なのに放課後また走っている彼を見かけたトガシが「走る理由」を問うと、現実から逃避するためだと言う。こんなにも苦しい思いをして走っている間は、辛い現実から逃れられるからだと。興味を惹かれたトガシは、小宮に走り方を教えるようになるのだが……。
たった100m、されど100m。100mを誰よりも速く走ることができれば、居場所を得られると考えているトガシ。実際そのとおりで、足が速かったトガシは労せず友だちも居場所も手に入れてきました。それに対して小宮は辛い現実に縛られていそうだけれど、別に家庭環境に問題があるわけでもなさそう。ただ自分を追い込んで走る。そしてがむしゃらに走ることで速くなる。
小学生から中学生になり、行き詰まりを感じて走ることを一旦やめていたトガシは、走らなくて済むように陸上部が強くもなんともない高校をわざと選んで入ります。しかし当然陸上部に勧誘され、1本だけ走るのを見せてほしいと言われて走ったら、忘れていた気持ちよさを思い出す。この高校時代がとてもいい。それぞれの声を担当する松坂桃李と染谷将太もピカイチ。
そして大人になった彼は、足のおかげで就職先も決まるけど、足はいつかしか衰えて、ちやほやされていたときは過ぎてゆきます。それでも走る人たち。この10秒を一緒に感じたいと思う。すごく好きでした。ちょうど“東京2025世界陸上”開催中だったから、気になって観てしまいました。
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