『これからの私たち All Shall Be Well』(原題:從今以後)
監督:レイ・ヨン
出演:パトラ・アウ,マギー・リー,タイ・ポー,ホイ・ソイン,フィッシュ・リュウ,リャン・チョンホン他
祇園でひとり呑みの前に京都で映画3本ハシゴ。その1本目にアップリンク京都で観たのがこの香港作品です。
共に60代のパット(マギー・リー)とアンジー(パトラ・アウ)は長年連れ添ってきたレズビアンカップル。ビジネスで成功したパットは生涯アンジーの面倒を見ると誓い、アンジーはそんなパットを頼もしく思いながら支える。ふたりで新事業を立ち上げる日を目前に控え、交友関係にも恵まれて穏やかで充実した暮らしを送っていた。
アンジーの両親、特に父親は、娘が同性愛者であるという事実について考えたくないのか、何度説明してもパットのことを「親友」としか認識しようとしない。一方、パットの兄シン(タイ・ポー)とその妻メイ(ホイ・ソイン)、兄夫婦の息子ビクトル(リャン・チョンホン)や娘ファニー(フィッシュ・リュウ)はふたりの関係に理解を示し、家族ぐるみのつきあいが続いている。中秋節には皆を招き、アンジーが腕によりをかけた料理をふるまうが、その晩、パットが急逝してしまい……。
台湾は東アジアで初めて同性婚を認めた国ですが、香港では同性婚は現在も非合法。いくら事実上のパートナーであっても、遺言状がなければパットの遺産を継ぐ権利はアンジーにはありません。ふたりで終の住処として購入したマンションの部屋も、パットだけが契約者として署名したものだから、アンジーのものとは認められないのです。
パットとアンジーのことをずっと見つめてきたにもかかわらず、遺産が絡むと変わるのが人間。無職だったシンはようやく夜勤の警備員にアルバイトが決まったばかりで、遺産が入るなら保険もつかない警備員の仕事をしなくてよくなるでしょう。妹のパットはビジネスの才があるのに、その兄であるシンはまるで駄目。どうしてこんなに兄妹で出来に差があるんだと、メイはパットとアンジーのことを妬ましく思っていたとメイ自身が吐露するシーンがあります。
親がこんなだから、楽ではない生活を送ってきたビクトルとファニーも、お小遣いやら車の修理代やら何かにつけてそっと手渡してくれていた叔母パットとアンジーの味方のままではいない。最初こそアンジーを追い出すなんてあんまりだと両親に言うけれど、次第に金と部屋がほしくなってしまうのです。
遺言状さえ書いてくれていたら。でも60代で今まで健康だったなら、自分が急死するなんて思いませんよね。ぼちぼち書けばいいやぐらいに構えていると、こんな事態に陥る。もっとも、遺言状を書かなかったせいではなく、同性婚や事実婚が認められていないことのほうが問題でしょう。かつ、本作を観れば香港の住宅不足や経済格差も浮き彫りになっています。ファニー一家が暮らすマンションなんて、ここはどこのスラムですかと思うほどの酷さ。ここから抜け出せるなら、世話になった人の心配なんてしていられないと思う気持ちもわからなくはない。
つい先日、別姓を通す日本人夫婦が、日本では法的に結婚が認められないため、婚姻届を提出するためだけに渡米して即帰国したという新聞記事を読みました。保険の受取人としても認められるかどうかは日本ではまだまだ厄介なようですが、それでも結婚自体は認められる。本作の中でも「アメリカで婚姻届を提出していたら、こんな理不尽なことにはならなかったのに」という弁護士の台詞があります。そんなことをしなくてもこの人たちは純然たるパートナーだったと認められる日はいつになったら来るのでしょう。
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